血小板由来成長因子-BB産生亢進剤、並びにそれを含む間葉系幹細胞産生促進剤、幹細胞安定化剤、及び真皮再生化剤

[0001]
 本発明は、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生亢進剤、並びに、当該PDGF-BB産生亢進剤を含んでなる間葉系幹細胞産生促進剤、幹細胞安定化剤、及び真皮再生化剤に関する。

[0002]
 幹細胞は、複数の細胞に分化した細胞を産生する多分化能と、細胞分裂によりその細胞と同じ細胞を産生する自己複製能という2つの性質を併せ持つ細胞である。受精卵の初期の発生段階である胚に由来する幹細胞は胚性幹細胞(ES細胞)と称される。ヒトES細胞は再生医療に使用することが期待されているものの、受精卵を利用するという倫理上の問題から、新たなヒトES細胞の作成は認められていない。

[0003]
 近年、ES細胞類似の性質を持つ細胞として、人工多能性幹細胞(iPS細胞)にも注目が集まっている。しかしながら、iPS細胞の作成には細胞の癌化、作成効率等の観点で多くの問題がある。一方、特定の組織に分化する能力を有する体性幹細胞は、患者自身の身体の組織、例えば骨髄から得られるため、胚性幹細胞のような倫理上の問題はない。

[0004]
 皮膚では表皮基底層に表皮幹細胞(非特許文献1)が存在することが良く知られており、また毛包のバルジ領域と呼ばれる領域には、毛包上皮幹細胞(非特許文献2)や皮膚色素幹細胞(非特許文献3)が存在することが報告されている。一方、真皮にはコラーゲンを主体とする繊維成分の中に、細長い紡錘形をした線維芽細胞が存在しているが、真皮の線維芽細胞に幹細胞が存在するかは明らかにされていない。また、真皮には脂肪、グリア、軟骨、筋肉など複数の細胞系列に分化する皮膚由来前駆細胞(skin-derived precursors:SKP)が存在すること(非特許文献4)は知られているものの、真皮線維芽細胞とSKPの関連は明らかではない。

[0005]
 線維芽細胞の前駆細胞として骨髄から分離された間葉系幹細胞(非特許文献5)は、間葉系に属するさまざまな細胞(骨細胞、筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞など)に分化することから、骨や血管、筋の再構築など再生医療への応用が期待されている。最近では、間葉系組織を持つ組織の多くに存在する可能性が明らかになってきており、脂肪や臍帯血、胎盤等からも間葉系幹細胞が単離されている(非特許文献6~8)。

[0006]
 近年の知見によれば、間葉系幹細胞は、血管周皮細胞(ぺリサイト)として全身の血管に存在し、血管安定化や組織恒常性維持に働くことが知られている(非特許文献9及び10)。
 また、組織損傷部位又はその近傍において血管が破壊されると、血管周皮細胞(ぺリサイト)である間葉系幹細胞は血管から離れて増殖し、失われた細胞を供給するとともに(非特許文献11~14)、生物活性を持つ因子を放出して組織を保護し(非特許文献15~19)、損傷した組織の修復・再生に作用する。これらの分泌因子は、血管形成や抗アポトーシスの作用のほか、免疫を強力に抑制する作用も有し(非特許文献21及び22)、T細胞やB細胞を介した損傷組織の破壊を抑える(非特許文献9及び22)ことも報告されている。
 更に、間葉系幹細胞は、抗線維化の作用(非特許文献23及び24)や、多発性硬化症や糖尿病に対する効果(非特許文献9)も示すことが知られている。

[0007]
 一方で、慢性炎症が、各種疾患(例えばメタボリックシンドローム、動脈硬化性疾患、癌、神経変性疾患、自己免疫疾患等)に共通する基盤病態であることが明らかになりつつある(非特許文献25)。例えば、慢性炎症によって内皮細胞機能障害やインスリン抵抗性が誘導され、糖尿病や動脈硬化性疾患等の種々の疾患の原因となることが報告されている(非特許文献26)。更には、肥満の脂肪組織そのものが、炎症性へと変化をきたすことも明らかになってきた(非特許文献27~29)。慢性炎症は血管周囲に生じるため、慢性炎症においても、血管周皮細胞(ぺリサイト)である間葉系幹細胞と血管との相互作用の破綻が生じていると考えられる。

[0008]
 以上の知見から、間葉系幹細胞の産生促進や安定化を図ることができれば、血管安定化、組織恒常性維持、損傷組織の修復・再生、抗線維化、多発性硬化症や糖尿病等の各種疾患の予防・治療、メタボリックシンドローム等の慢性炎症に基づく各種状態の予防・改善等、各種の用途に極めて有効であると考えられる。

[0009]
 本発明者等は、真皮にも間葉系幹細胞が存在することを報告し、真皮から効率よく間葉系幹細胞を単離する方法を確立した(特願2009-213291)。上述の間葉系幹細胞の作用を考慮すれば、真皮における間葉系幹細胞の安定化や産生亢進を図ることにより、真皮の状態改善や再生等にも有効であると考えられる。

[0010]
 更に、本発明者等は、真皮や皮下脂肪において間葉系幹細胞の存在する部位をより詳細に明らかにするとともに、間葉系幹細胞の局在化に血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)が関与していることを見出し、更には、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生亢進が間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化に寄与することを明らかにした(特願2010-209705)。

[0011]
 血小板由来成長因子(PDGF)は、線維芽細胞、平滑筋細胞、グリア細胞等といった間葉系幹細胞の遊走及び増殖等の調節に関与する増殖因子であり、上皮細胞や内皮細胞等の様々な細胞によって産生される。PDGFにはPDGF-A、B、C及びDの少なくとも4種類が存在するが、A鎖及びB鎖はジスルフィド結合を形成することによりホモあるいはヘテロ2量体構造をとり3種類のアイソフォーム(PDGF-AA、AB、BB)を有している。PDGFはチロシンキナーゼ関連型であるPDGF受容体(PDGFR)を介してその生理作用を発現することが知られている。PDGF-Bの遺伝子は公知であり、遺伝子クローニングされている(非特許文献30)。

[0012]
 斯かるPDGF-BBの産生亢進に有効な成分を見出すことができれば、これを用いて間葉系幹細胞の産生促進や幹細胞の安定化を図ることができ、ひいては上記の各種用途等に有効に使用できるものと考えられる。

[0013]
Watt FM, J Dermatol Sci, 28:173-180, 2002 Cotsarelis G et al., Cell, 57:201-209, 1989 Nishimura EK et al., Nature, 416:854-860, 2002 Wong CE al., J Cell Biol, 175:1005-1015, 2006 Pittenger MF et al., Science, 284:143-147, 1999 Park KW et al., Cell Metab, 8:454-457, 2008 Flynn A et al., Cytotherapy, 9:717-726, 2007 Igura K et al., Cytotherapy, 6:543-553, 2004 da Silva Meirelles L et al., Stem Cells, 2008 Sep;26(9):2287-2299 da Silva Meirelles L et al., J Cell Sci, 2006;119:2204-2213 Dai WD et al., Circulation, 2005;112:214-223 Fazel S et al., J Thorac Cardiovasc Surg, 2005;130:1310-1318 Noiseux N et al., Mol Ther, 2006;14:840-850 Zhao LR et al., Exp Neurol, 2002;174:11-20 Gnecchi M et al., Nat Med, 2005; 11:367-368 Kinnaird T et al., Circ Res, 2004;94:678-685 Kinnaird T et al., Circulation, 2004;109:1543-1549 Tang YL et al., Ann Thorac Surg, 2005;80:229-237 Zhang M et al., FASEB J, 2007;21:3197-3207 Le Blanc K et al., J Intern Med, 2007;262:509-525 Uccelli A et al., Trends Immunol, 2007;28:219-226 Caplan AI et al., J Cell Biochem, 2006;98:1076-1084 Fang BJ et al., Transplantation, 2004;78:83-88 Ortiz LA et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2003;100:8407-841 小川佳宏, 実験医学, 28:1680-1687, 2010 Medzhitov R, Nature, 454:428-35, 2008 Hotamisligil GS, Nature, 444(7121):860-7, 2006 Wellen KE et al., J Clin Invest, 115(5):1111-9, 2005 菅波孝祥他, 実験医学, 28:1717-1723, 2010 Dalla-Favera R et al., Nature, 292:31-35, 1981

[0014]
 本発明は、上記背景に鑑みてなされたもので、その課題は、PDGF-BBの産生亢進に有効な剤を提供すると共に、これを用いて、間葉系幹細胞の産生促進及び/又はその安定化に有効な剤を提供することにある。

[0015]
 本発明者らは、多種多様な素材について検討を重ね、PDGF-BBの産生を亢進させる薬剤をスクリーニングした結果、コケモモ、マンゴスチン、及びオウゴンの各植物由来物、並びにイノシトール及びイノシトールリン酸が、各々顕著なPDGF-BB産生亢進作用を示すことを見出し、本発明を為すに至った。

[0016]
 したがって、本願は下記の発明を包含する:
[1]コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール及びイノシトールリン酸から選択される1又は2以上の成分を有効成分として含んでなる血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生亢進剤。
[2]イノシトールを含むとともに、酵母エキスをさらに含んでなる、[1]に記載のPDGF-BB産生亢進剤。
[3]イノシトールがコメヌカ由来のイノシトールリン酸である、[1]又は[2]に記載のPDGF-BB産生亢進剤。
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載のPDGF-BB産生亢進剤を含んでなる、間葉系幹細胞産生促進剤。
[5][1]~[3]のいずれか1つに記載のPDGF-BB産生亢進剤を含んでなる、幹細胞安定化剤。
[6][1]~[3]のいずれか1つに記載のPDGF-BB産生亢進剤を含んでなる、真皮再生化剤。

[0017]
 本発明によれば、PDGF-BBの産生亢進に有効な剤が提供されるとともに、これを用いることにより、間葉系幹細胞の産生促進や安定化等に有効な剤も提供される。

[0018]
[コケモモ由来物]
 コケモモ(学名:Vaccinium vitis-idaea L.)はツツジ科スノキ属の植物である。本発明ではコケモモ由来物として、コケモモの花、花穂、果穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子又は全草を粉砕後搾取したもの、又は粉砕後に溶媒等で抽出したもの、又は粉砕後に酵素処理や機械的処理等の処理により分解したものを用いることができる。

[0019]
 コケモモを抽出する場合、抽出溶媒としては抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒を、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。
 抽出は常温で行ってもよいが、加熱下で(例えば温水や熱水等の加熱した溶媒を用いて)行ってもよい。
 上記溶媒で抽出して得た抽出液をそのまま、あるいは濃縮したエキスを用いるか、あるいはこれらエキスを吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD-2)のカラムにて吸着させた後、メタノールまたはエタノールで溶出し、濃縮したものも使用することができる。また、公知の分配法(例えば水/酢酸エチル等を用いた分配法)により抽出した抽出物等も用いられる。

[0020]
 コケモモを分解する場合、細胞間質が選択的に分解され、且つ細胞形態は維持されるような「単細胞化処理」を行ってもよい。例えば特開2002-193734に記載の方法を参考にすることができる。具体的には、植物を、酵素分解や機械的分解等により、細胞壁をほとんど分解せずに細胞間質を選択的に分解又は破壊して、対象物を、細胞形態が維持されたままの状態で細胞単位に分解し、粥状、液体組成物又は凍結乾燥品とする処理をいう。かかる選択的な分解を行うために、酵素処理を用いることができる。例えば、Rizopus属やAspergillus属等の酵素原料から、通常公知の方法により単離又は単離・精製したものを用いることができ、また市販品を用いることもできる。これらの単細胞化酵素を、コケモモに作用させる場合には、用いる酵素の至適温度及び至適pH等の至適条件で作用させ、かつ必要最少量を用いることが好ましい。ここで、単細胞化酵素の至適温度は30~45℃であり、至適pHは4~6である。また、酵素反応後に残渣となる部分は、例えば、20メッシュ程度の篩を用いて除去することにより、本外用組成物に含有させ得るコケモモ由来物とすることができる。

[0021]
 さらに、上記の単細胞化植物の懸濁液の他に、この懸濁液を、遠心分離等の方法により脱水して得られる単細胞ペースト又はその乾燥品を本発明に用いることができる。

[0022]
 コケモモは、これまで、単細胞化処理したコケモモを含有する外用剤(特開2002-193734)、殺菌、抗菌及びふけ防止用化粧料(特開昭61-238719)、エラスターゼ活性阻害剤(特開2002-363088)、活性酵素消去剤(特開2002-363027)、メラニン生成抑制剤(特開2002-363057)、過酸化脂質生成抑制剤(特開2002-363089)、コラゲナーゼ活性阻害剤(特開2003-12531)、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤(特開2003-73287)、メタロプロテアーゼ発現阻害剤(特開2002-193738)、抗グリゲーション剤(特表2004-505007)、及び皮膚肥厚、皮膚硬化等の皮膚障害に対する抗皮膚障害剤(特開2005-306850)として用いられた例があるが、コケモモ由来物にPDGF-BB産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された。

[0023]
[マンゴスチン由来物]
 マンゴスチン(学名:Garcinia mangostana)はオトギリソウ科フクギ属の植物である。本発明ではマンゴスチン由来物として、マンゴスチンの果穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子又は全草を粉砕後搾取したもの、又は粉砕後に溶媒等で抽出したものを用いることができる。

[0024]
 マンゴスチンを抽出する場合、抽出溶媒としては抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール等の低級アルコール或いは含水低級アルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール或いは含水多価アルコール、アセトン、酢酸エチルエステル等の各種有機溶媒により抽出し、溶媒を留去することにより得ることができる。
 抽出は常温で行ってもよいが、加熱下で(例えば温水や熱水等の加熱した溶媒を用いて)行ってもよい。
 また、溶媒に酵素を加えて抽出処理を行ってもよい。酵素を加えることによって、果実の細胞組織を崩壊させることができ、これにより抽出効率をより高めることができる。酵素としては、細胞組織崩壊酵素を用いることが好ましい。このような酵素としては、例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α-アミラーゼ、フィターゼが挙げられる。これらの酵素は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
 上記抽出溶媒を用いて得られる抽出液をそのまま使用することができるが、抽出溶媒を留去し、必要により乾燥した後に含有させてもよい。

[0025]
 マンゴスチンは、これまで、紫外線吸収剤(特開平9-87155)、MMPs阻害剤(特開2003-252745)、線維芽細胞賦活剤(特開2006-249051)として用いられた例があり、またキサントン誘導体の製造及びコラーゲン産生作用を有する(特開2009-84169)ことが知られているが、マンゴスチン由来物にPDGF-BB産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された。

[0026]
[オウゴン由来物]
 オウゴン(学名:Scutellaria baicalensis Georgi, Labiatae)はシソ科タツナミソウ属の植物である。本発明ではオウゴン由来物として、オウゴンの果穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子又は全草を粉砕後搾取したもの、又は粉砕後に溶媒等で抽出したものを用いることができる。

[0027]
 オウゴンを抽出する場合、抽出溶媒としては、通常植物抽出等に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等の低級アルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール、あるいはこれらアルコール類の含水物、n-ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、あるいは任意の二種以上を組み合わせて用いてもよい。中でもメタノールやエタノール等の低級アルコールが好ましく用いられる。
 抽出は常温で行ってもよいが、加熱下で(例えば温水や熱水等の加熱した溶媒を用いて)行ってもよい。
 また、溶媒に酵素を加えて抽出処理を行ってもよい。酵素を加えることによって、果実の細胞組織を崩壊させることができ、これにより抽出効率をより高めることができる。酵素としては、細胞組織崩壊酵素を用いることが好ましい。このような酵素としては、例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α-アミラーゼ、フィターゼが挙げられる。これらの酵素は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
 上記抽出溶媒を用いて得られる抽出液をそのまま使用することができるが、抽出溶媒を留去し、必要により乾燥した後に含有させてもよい。

[0028]
 オウゴンは、これまで、毛乳頭活性化剤(特開平11-240823)、ヒアルロン酸産生能増強剤(特開平10-95735)、紫外線皮膚免疫機能低下防止用免疫賦活剤(特開平11-71295)、抗炎症剤(特開2006-8536)、及び抗酸化剤(特開平5-238925)として用いられた例があるが、オウゴン由来物にPDGF-BB産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された。

[0029]
[イノシトール・イノシトールリン酸]
 イノシトールはビタミンBの一種と言われ、生体内でもグルコースから生合成されることが知られている。イノシトールは穀物、糠、マメ、果物等の植物にも含有されている。イノシトールはしばしば、そのヒドロキシ基がリン酸化された形態(イノシトールリン酸)で存在する。本発明では斯かるイノシトールリン酸も使用することができる。本発明に用いられるイノシトールには、イノシトールの各種の立体異性体が含まれる。イノシトールの立体異性体としては、cis-イノシトール(1,2,3,4,5,6/0-イノシトール)、epi-イノシトール(1,2,3,4,5/6-イノシトール)、allo-イノシトール(1,2,3,4/5,6-イノシトール)、myo-イノシトール(1,2,3,5/4,6-イノシトール、muco-イノシトール(1,2,4,5/3,6-イノシトール)、neo-イノシトール(1,2,3/4,5,6-イノシトール)、chiro-イノシトール(1,2,4/3,5,6-イノシトール)、及びscyllo-イノシトール(1,3,5/2,4,6-イノシトール)がある。イノシトールリン酸としては、イノシトールの6個のヒドロキシ基のうち任意の1又は2以上がリン酸化された化合物が挙げられる。中でも、イノシトールの6個のヒドロキシ基が全てリン酸化された化合物であるフィチン酸が好ましい。本発明で用いられるイノシトール又はイノシトールリン酸は、コメヌカ由来であることが好ましい。また、イノシトールリン酸の任意の塩も、本発明に使用できる。

[0030]
 本発明のある実施態様によれば、イノシトール及びイノシトールリン酸は、単体の粉末を培地に溶解して適宜希釈して使用することができる。

[0031]
 イノシトール及びイノシトールリン酸は、他の物質との組み合わせることによりPDGF-BB産生亢進作用を向上させることもできる。かかる他の物質としては、酵母エキスが挙げられ、例えば、バイオダイン(登録商標)EMPP(Arch Personal Care Products L.P.社製)を使用することができる。当該エキスを用いる場合は、エキスの乾燥残分から濃度変換することにより、培地に0.1%前後になるようエキスを添加して使用することができる。

[0032]
 イノシトール及びイノシトールリン酸はこれまで、イノシトールを含有する老化皮膚及び/又はストレスを受けた皮膚用の美容組成物(特表204-501069)、イノシトールリン酸(特にフィチン酸とその塩)を含有する脂肪性浮腫の兆候を低減又は予防するための化粧品組成物(特開平8-253406)、並びに皮膚保湿及び/又は皮膚保護及び/又は皮膚抗老化用の組成物(特開2010-150258)として用いられた例がある。また、ビタミンB類としては、ビタミンB2及びB6含有の細胞賦活用皮膚外用剤(特開平9-241146)、ビタミンB含有の抗酸化剤(特開平7-277939及び特開205306831など)として用いられた例がある。しかしながら、ビタミンB類又はイノシトール若しくはイノシトールリン酸が、PDGF-BB産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用を有することはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された。

[0033]
[PDGF-BB産生亢進剤、間葉系幹細胞産生促進剤、幹細胞安定化剤及び真皮再生化剤]
 本発明のPDGF-BB産生亢進剤は、コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール及びイノシトールリン酸から選択される1又は2以上を有効成分として含有する。また、本発明の間葉系幹細胞産生促進剤、幹細胞安定化剤及び真皮再生化剤は、上記の有効成分を含む本発明のPDGF-BB産生亢進剤を含有する。本発明のPDGF-BB産生亢進剤、間葉系幹細胞産生促進剤、幹細胞安定化剤及び真皮再生化剤(以降これらを総称して「本発明の剤」という場合がある。)は、上記の有効成分の何れか1種を単独で含有してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で含有してもよい。

[0034]
 上述のように、本発明者等の知見によれば、PDGF-BBは間葉系幹細胞の局在化に関与しており、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生を亢進することによって、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化を図ることができる(特願2010-209705)。すなわち、本発明のPDGF-BB産生亢進剤は、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化の目的に極めて有効に用いることが可能である。
 また、上述のように、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化が、血管の安定化、組織恒常性の維持、損傷組織の修復・再生(特に真皮の再生)、抗線維化、多発性硬化症や糖尿病等の各種疾患の予防・治療、メタボリックシンドローム等の慢性炎症に基づく各種状態の予防・改善等の用途に極めて有効であることが知られている。よって、本発明のPDGF-BB産生亢進剤を用いた本発明の間葉系幹細胞産生促進剤及び幹細胞安定化剤は、これらの用途に極めて有効に用いることが可能である。

[0035]
 本発明の剤は、上記の有効成分を、1種又は2種以上の他の成分、例えば賦形剤、担体及び/又は希釈剤等と組み合わせた組成物とすることもできる。組成物の組成や形態は任意であり、有効成分や用途等の条件に応じて適切に選択すればよい。当該組成物は、その剤形に応じ、賦形剤、担体及び/又は希釈剤等及び他の成分と適宜組み合わせた処方で、常法を用いて製造することができる。

[0036]
 本発明の剤は、各種の飲食品、飼料(ペットフード等)に配合してヒト及び動物に摂取させることができる。また、化粧品等に配合してヒト及び動物に使用し、或いは医薬製剤としてヒト及び動物に投与してもよい。

[0037]
 具体的に、本発明の剤を飲食品や飼料等に配合する場合、植物体又はその抽出物の配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法等に応じて適宜決めることができる。例えば、成人一日当たり植物又はその抽出物の摂取量が、アムラ抽出物では0.5mg~1g(乾燥残分)、リンゴンベリー抽出物では0.5mg~3g程度になるように配合できる。特に、保健用飲食品等として利用する場合には、本発明の有効成分による所定の効果が十分発揮されるように、成人一日当たり、アムラ抽出物では10mg~500mg(乾燥残分)、リンゴンベリー抽出物では10mg~1.5g(乾燥残分)となるように含有させることが好ましい。

[0038]
 飲食品や飼料の形態としては、任意の形態とすることが可能であり、例えば、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、又は、液体状に成形することができる。これらの形態には、飲食品等に含有することが認められている公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤等の賦形剤を適宜含有させることができる。

[0039]
 本発明の剤を化粧品に適用する場合、植物体又はその抽出物の配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、化粧料全量中に、アムラ抽出物、リンゴンベリー抽出物それぞれ0.00001%~50%(乾燥質量換算)を配合でき、中でも0.0001%~5%(乾燥質量換算)が好ましい。

[0040]
 上記成分に加えて、さらに必要により、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば酸化防止剤、油分、紫外線防御剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。

[0041]
 さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属イオン封鎖剤、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸及びその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸及びその誘導体又はその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。

[0042]
 また、この皮膚外用剤は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等、特に好適には化粧料に広く適用することが可能である。その剤型も、皮膚に適用できるものであればいずれでもよく、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水-油二層系、水-油-粉末三層系、軟膏、化粧水、ゲル、エアゾール等、任意の剤型が適用される。

[0043]
 本発明の剤を化粧品として用いる場合は、化粧水、乳液、ファンデーション、口紅、リップクリーム、クレンジングクリーム、マッサージクリーム、パック、ハンドクリーム、ハンドパウダー、ボディシャンプー、ボディローション、ボディクリーム、浴用化粧品等の形態として用いるのが好ましく、この際、これらの形態とする際に通常添加・配合される成分、例えば保湿剤、香料、可溶化剤、安定化剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等の成分も適宜配合することができる。

[0044]
 本発明の剤を外用剤として適用する場合、植物体又はその抽出物の配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、化粧料全量中に0.00001%~50%(乾燥質量換算)が好ましく、その他の飲食品では0.0001%~5%(乾燥質量換算)が好ましい。

[0045]
 本発明の剤を医薬部外品として用いる場合であれば、該製剤は経口的にあるいは非経口的(静脈投与、腹腔内投与、等)に適宜に使用される。剤型も任意で、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、又は、注射剤などの非経口用液体製剤など、いずれの形態にも公知の方法により適宜調製することができる。これらの医薬製剤には、通常用いられる結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調整剤などの賦形剤を適宜使用してもよい。

[0046]
 外用剤であれば、各種の軟膏剤等の形態に広く適用することが可能であるが、ローション剤、懸濁剤・乳剤、液剤、軟膏剤、貼付剤等の形体として用いるのが好ましい。なお、本発明の剤の採り得る形態が、これらの剤型及び形態に限定されるものではない。

[0047]
 本発明の剤を投与した際の間葉系幹細胞中のPDGF-BB遺伝子の発現は、例えばPDGF-BBの量を測定することにより発現量を決定し、評価することができる。好ましくは、この測定は、PDGF-BBに特異的な抗体を利用し、当業界において周知の方法、例えば蛍光物質、色素、酵素等を利用する免疫染色法、ウェスタンブロット法、免疫測定方法、例えばELISA法、RIA法等、様々な方法により実施できる。また、例えば、間葉系幹細胞中の総RNAを抽出し、PDGF-BをコードするmRNAの量を測定することにより決定して評価することもできる。mRNAの抽出、その量の測定も当業界において周知であり、例えばRNAの定量は定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、例えばリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により行われる。RT-PCRに適切なプライマーの選定は、当業者に周知の方法により実施することができる。

[0048]
 次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。

[0049]
[評価対象サンプル]
 PDGF-BBの産生亢進作用の評価対象サンプルとして以下を用いた。

[0050]
・イノシトール:
 市販のイノシトール粉末(和光純薬工業社製:ミオ-イノシトール)をPBSに溶解後、後述の培地に対して10ppmとなるように使用した。

[0051]
・フィチン酸:
 市販のフィチン酸(ナカライテスク社製:50%水溶液)を、後述の培地に対して10ppmとなるように使用した。

[0052]
・オウゴンエキス:
 オウゴンの周皮を除いた根を、70体積%エタノール(水とエタノールとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物を用いた。抽出物は乾燥して保存し、使用直前に70体積%エタノールを加えて溶解させた上で、後述の培地に対して(抽出物の乾燥重量換算で)15ppmとなるように使用した。

[0053]
・コケモモCRS(cell release system):
 コケモモの葉を細胞分解酵素(マセロチームA)で処理した細胞懸濁液に、1,3-BGを40体積%になるよう加えた懸濁液を用いた。懸濁液は液体として保存し、後述の培地に対して(抽出物の乾燥重量換算で)30ppmとなるように使用した。

[0054]
・マンゴスチン樹皮エキス:
 マンゴスチンの樹皮を、70体積%1,3-BG(水と1,3-BGとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物を用いた。抽出物は乾燥して保存し、使用直前に70体積%1,3-BGを加えて溶解させた上で、後述の培地に対して(抽出物の乾燥重量換算で)10ppmとなるように使用した。

[0055]
[血管内皮細胞におけるPDGF-BBの産生亢進作用の評価]
 ヒト血管内皮細胞HUVECをEGM-2培地(三光純薬)で継代培養し、継代4代目の細胞を、VEGF-Aを含まないHumedia-EG2培地(クラボウ)に懸濁して、コラーゲンコート24穴マルチプレート(旭硝子)に20,000個の割合で播種し、5%CO存在下、37℃で細胞が集密に達するまで3~5日間の培養を行った。上記の各サンプルを上記濃度となるように添加、又は各評価対象サンプルが溶解している溶媒を添加したHumedia-EG2培地(クラボウ)に交換した後、さらに2日間培養を行った。培養後の細胞からRNA抽出試薬MagNA Pure LC mRNA HSキット(Roche)と自動核酸抽出装置MagNA Pure LC 1.0 インスツルメント(Roche)を用いて、提供されたプロトコールに従ってmRNAの抽出・精製を行った。各サンプルについて、同容量のmRNAを鋳型に、後述の配列番号1及び2のプライマーペア、反応試薬QuantiFast SYBR Green RT-PCR Kit(Qiagen)と反応装置LightCycler(Roche)を用いて、PDGF-B遺伝子のワンステップ定量リアルタイム(RT)-PCRを行った。組成条件はQiagenのプロトコールに従った。また、RT-PCRの条件は、RT反応50℃で20分、初期変性95℃で15分、変性94℃で15秒、アニール60℃で20秒、伸長72℃で30秒とした。なお、G3PDHは内部標準として用い(配列番号3及び4のプライマーペア)、これを用いて対照群のmRNA量を補正した。

[0056]
PDGF-B:
フォワードプライマー:5'-CCTGGCATGCAAGTGTGA-3'(配列番号1)
リバースプライマー:5'-CCAATGGTCACCCGATTT-3'(配列番号2)
G3PDH:
フォワードプライマー:5'-GCACCGTCAAGGCTGAGAAC-3'(配列番号3)
リバースプライマー:5'-ATGGTGGTGAAGACGCCAGT-3'(配列番号4)

[0057]
[評価結果]
 上記評価手順に従い、上記各サンプルについて得られたPDGF-BBのmRNAの発現量の、対照(各評価対象サンプルが溶解している溶媒)について得られた発現量に対する比を、以下の表に示す。以下の結果から、これらの成分はPDGF-BB発現を亢進させる活性を有することが分かる。

[0058]

[1]
 コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール及びイノシトールリン酸からなる群より選択される1又は2以上を有効成分として含んでなる血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生亢進剤。

[2]
 イノシトール又はイノシトールリン酸を含むとともに、酵母エキスをさらに含んでなる、請求項1に記載のPDGF-BB産生亢進剤。

[3]
 イノシトール又はイノシトールリン酸がコメヌカ由来である、請求項1又は2に記載のPDGF-BB産生亢進剤。

[4]
 請求項1~3のいずれか1項に記載のPDGF-BB産生亢進剤を含んでなる、間葉系幹細胞産生促進剤。

[5]
 請求項1~3のいずれか1項に記載のPDGF-BB産生亢進剤を含んでなる、幹細胞安定化剤。

[6]
 請求項1~3のいずれか1項に記載のPDGF-BB産生亢進剤を含んでなる、真皮再生化剤。

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