Antibody Capable Of Specifically Binding To A? Oligomer, And Use Thereof

Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体およびその利用

[0001]
 本発明は、Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体およびその用途に関する。

[0002]
 さまざまな証拠により、記憶力低下は可溶性Aβオリゴマーによって引き起こされるシナプス機能不全に起因することが示されている(非特許文献1および2参照)。Aβオリゴマーの過度の蓄積および沈着は、アルツハイマー病(AD)に至る一連の病的カスケードの引き金となっている可能性がある。従って、Aβオリゴマーを標的とする治療的介入はこの病的カスケードを遮断するのに有効と考えられる。しかし、このアミロイドカスケード仮説の中核となる責任分子、特にAβオリゴマーによって媒介される神経変性に関する知見は、主としてインビトロ実験から生まれたものであり(非特許文献3参照)、インビボでは直接的には証明されていない。これまでに報告されたインビボ実験(非特許文献4参照)における最大の欠点は、立体構造特異的な分子ツールの不足により、内因性Aβ重合体のシナプス毒性作用を解明するに至らなかったことにある。アルツハイマー病モデルマウスでさえ解決困難な局面を、ヒト脳において解決する術はなく、その内因性Aβのインビボ神経毒性は往々にして無視されてきた。なぜヒト内嗅領皮質においてNFT形成および神経細胞喪失が老人斑形成に先行するのか、如何にAβオリゴマーが関与するのかは未だに不明なままである。

[0003]
 なお本発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。

[0004]
Klein WL, Trends Neurosci 24: 219-224, 2001. Selkoe DJ, Science 298: 789-791, 2002. Hass C et al : Nature Reviw 8: 101-12, 2007. Lee EB, et al: J Biol Chem. 281: 4292-4299, 2006.

[0005]
 本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体およびその用途を提供することを課題とする。より詳細には、Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体、該抗体を用いたAβオリゴマーを測定する方法、該抗体を用いたアルツハイマー病を診断する方法、ならびに該抗体を含む薬剤を提供することを目的とする。

[0006]
 本発明者らは生理的分子である可溶性アミロイドβ(Aβ)モノマーを認識せず、可溶性Aβオリゴマーのみに特異的なモノクローナル抗体を作製し、以下の5つの機能を確認した:
(1)抗神経毒性活性;
(2)Aβアミロイド線維形成抑制活性;
(3)Aβオリゴマーのみを認識する特異性;
(4)AD脳においてAβオリゴマーを捕捉する能力;
(5)APPswe-トランスジェニックマウス(Tg2576)におけるアルツハイマー病様表現型発症(記憶障害、脳Aβ蓄積レベル)を予防する能力。

[0007]
 作製抗体の中で、モノクローナル1A9または2C3は、限外濾過・分子篩法による判定から、モノマー(約4.5 kDa)を認識せず、30 kDa以上、主に100 kDa以上のオリゴマーを特異的に認識することを確認した。次いで、神経細胞に分化させたPC12細胞において、Aβ1-42が誘発する神経毒性中和効果を検証した結果、両抗体とも神経毒性中和活性を有することを確認した。チオフラビンTアッセイおよび電子顕微鏡検査においても、両抗体にAβアミロイド線維形成抑制活性を確認した。AD脳における両抗体のAβオリゴマー捕捉能は、1A9と2C3を用いた免疫沈降にてSDS安定性4-、5-、8-、12-merの存在にて確認した。さらにヒト脳におけるインビボ神経毒性検証を目的とし、主にBraak NFTステージI~IIIのヒト内嗅領皮質にて両抗体に認識される重合体の多寡を検証した。特に動物実験で神経毒性を有すると報告されていた12-merに着目した結果、その蓄積は認知機能障害の出現に先行し、Braak NFTステージが進行するに伴って増加することを確認した。この結果は両抗体で特異的に認識される12-merがヒト脳内でのインビボ神経毒性の原因となる立体構造重合体(conformational assembly)であることを初めて示したものである。本発明者らはまた、両抗体の認識するオリゴマー性立体構造体がCSF(脳脊髄液)中に存在し、AD患者で増加していることも見出した。本発明者らは1A9または2C3を他の神経疾患と同様に静脈注射での受動免疫療法として用いて、亜慢性的な受動免疫処置によってTg2576マウスが記憶障害、老人斑病変、シナプス機能不全およびAβ蓄積から防御され、有害な副作用も見られないことを確認した。本発明者らの結果は、モノクローナル1A9または2C3が、Tg2576マウスにおけるアルツハイマー様表現型を予防するための治療用抗体として、特に脳内移行を考慮することなく通常の末梢静脈投与でその効果発現を期待しうる有望な候補であることを初めて明らかとしたものである。

[0008]
 また本発明者らは、1A9および2C3抗体の受動免疫療法により、老人斑アミロイドおよび腫大変性神経突起形成が抑制されることを確認した。さらには、血液中に投与した1A9および2C3抗体の一部が脳内へ移行することを見出した。

[0009]
 上述の如く、本発明者らは本明細書において、Aβオリゴマーに特異的に結合する抗体であるモノクローナル1A9または2C3が診断・治療抗体設定基準を全て満たし、アルツハイマー病を診断・予防するための治療用抗体の有望な候補であることを提示するものである。

[0010]
 また本発明者らは、1A9および2C3抗体と同様に、Aβモノマーを認識せずAβオリゴマーに特異的に結合する抗体E12、1C10および4D3抗体を得ることに成功し、このうちのE12抗体が、Aβアミロイド線維形成抑制活性を有することを見出した。

[0011]
 このため、上記のE12、1C10および4D3抗体も、アルツハイマー病を診断・予防するための治療用抗体の有望な候補であることを提示する。

[0012]
 即ち本発明は、
〔1〕 Aβオリゴマーに結合する抗体であって、Aβモノマーに結合しないことを特徴とする、抗体、
〔2〕 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するH鎖、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体が結合するAβオリゴマーと結合する抗体、
〔3〕 配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するH鎖、および配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体が結合するAβオリゴマーと結合する抗体、
〔4〕 配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するH鎖、および配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体が結合するAβオリゴマーと結合する抗体、
〔5〕 以下の(1)~(20)のいずれかに記載の抗体、
(1)CDR1として配列番号:9に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:11に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:13に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(2)CDR1として配列番号:15に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:17に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(3)(1)に記載のH鎖、および(2)に記載のL鎖を含む抗体
(4)VHとして配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(5)VLとして配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(6)(4)に記載のH鎖、および(5)に記載のL鎖を含む抗体
(7)CDR1として配列番号:29に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:31に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:33に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(8)CDR1として配列番号:35に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:37に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:39に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(9)(7)に記載のH鎖、および(8)に記載のL鎖を含む抗体
(10)VHとして配列番号:25に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(11)VLとして配列番号:27に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(12)(10)に記載のH鎖、および(11)に記載のL鎖を含む抗体
(13)CDR1として配列番号:49に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:51に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:53に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(14)CDR1として配列番号:55に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:57に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:59に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(15)(13)に記載のH鎖、および(14)に記載のL鎖を含む抗体
(16)VHとして配列番号:45に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(17)VLとして配列番号:47に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(18)(16)に記載のH鎖、および(17)に記載のL鎖を含む抗体
(19)(1)から(18)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)から(18)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体
(20)(1)から(18)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープに結合する抗体
〔6〕 抗体がキメラ抗体またはヒト化抗体であることを特徴とする、〔5〕に記載の抗体、
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物、
〔8〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として含有する、抗認知機能障害剤、
〔9〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として含有する、アルツハイマー病治療剤、
〔10〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として含有する、アルツハイマー病進行抑制剤、
〔11〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として含有する、老人斑形成抑制剤、
〔12〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として含有する、Aβ蓄積抑制剤、
〔13〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として含有する、抗神経毒性剤、
〔14〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として含有する、Aβアミロイド線維形成阻害剤、
〔15〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として含有する、抗シナプス毒性剤、
〔16〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として投与する工程を含む、認知機能障害の予防および治療のいずれか、または両方のための方法、
〔17〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として投与する工程を含む、アルツハイマー病の予防および治療のいずれか、または両方のための方法、
〔18〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として投与する工程を含む、アルツハイマー病の進行を抑制する方法、
〔19〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として投与する工程を含む、老人斑形成を抑制する方法、
〔20〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として投与する工程を含む、Aβの蓄積を抑制する方法、
〔21〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として投与する工程を含む、神経毒性を中和する方法、
〔22〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として投与する工程を含む、Aβアミロイド線維の形成を阻害する方法、
〔23〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物を有効成分として投与する工程を含む、シナプス毒性を中和する方法、
〔24〕 被験者から採取された試料に含まれるAβオリゴマーを、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体を用いて検出する工程を含む、Aβオリゴマーを測定する方法、
〔25〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体を用いて、被験者から採取された試料におけるAβオリゴマーを検出することを特徴とする、被験者がアルツハイマー病候補であるか否か診断する方法、
〔26〕 以下の工程を含む、被験者がアルツハイマー病候補であるか否かを診断する方法であって、工程(b)に記載の量が健常者と比較して高い場合に、被験者がアルツハイマー病候補であると判定される方法、
(a)被験者から採取した試料、および〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体とを接触させる工程
(b)前記試料中におけるAβオリゴマーの量を測定する工程
〔27〕 以下の工程を含む、被験者がアルツハイマー病候補であるか否かを診断する方法であって、工程(b)に記載の比が健常者と比較して高い場合に、被験者がアルツハイマー病候補であると判定される方法、
(a)被験者から採取した試料、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、およびAβモノマーに結合する抗体とを接触させる工程
(b)前記試料中におけるAβモノマーに対するAβオリゴマーの比を測定する工程
〔28〕 試料が血液もしくは脳脊髄液である、〔24〕~〔27〕のいずれかに記載の方法、
〔29〕 〔24〕~〔27〕のいずれかに記載の方法に用いるための薬剤、
〔30〕 〔24〕~〔27〕のいずれかに記載の方法に用いるためのキット、
を提供するものである。
 さらに本発明は、
〔31〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物の抗認知症機能障害剤の製造における使用、
〔32〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物のアルツハイマー病治療剤の製造における使用、
〔33〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物のアルツハイマー進行抑制剤の製造における使用、
〔34〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物の老人斑形成抑制剤の製造における使用、
〔35〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物のAβ蓄積抑制剤の製造における使用、
〔36〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物の神経毒性活性中和(抑制)剤の製造における使用、
〔37〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物のAβアミロイド線維形成阻害剤の製造における使用、
〔38〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物のシナプス毒性活性中和(抑制)剤の製造における使用、
〔39〕 認知機能障害の予防および治療のいずれか、または両方に使用するための、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物、
〔40〕 アルツハイマー病の予防および治療のいずれか、または両方に使用するための、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物、
〔41〕 アルツハイマー病進行抑制に使用するための、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物、
〔42〕 老人斑形成抑制に使用するための、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物、
〔43〕 Aβ蓄積抑制に使用するための、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物、
〔44〕 神経毒性活性中和(抑制)に使用するための、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物、
〔45〕 Aβアミロイド線維形成阻害に使用するための、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物、
〔46〕 シナプス毒性活性中和(抑制)に使用するための、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗体、または〔7〕に記載の組成物、
を提供する。

[0013]
 本発明によって提供される抗体によって、アルツハイマー病の病態惹起性責任分子選択的な予防・治療法確立と早期診断マーカー確立への多大な貢献が期待される。脳内病態を標的とすべき抗体療法においても、その脳内移行を考慮することなく末梢静脈投与療法で十分であるとの傍証が得られた結果、アルツハイマー病の抗体医療が一気に加速すると考えられる。

[0014]
オリゴマー特異抗体の作製および特性決定の結果を示す写真およびグラフである。A、免疫原の電気泳動。SDS-PAGE にてAβ1-42モノマー(白色の矢印)の混入を伴わぬAβ1-42テトラマー(赤色の矢印)を単離した。レーン1、10 mMリン酸緩衝液に溶解したAβ1-42;レーン2、蒸留脱イオン水に溶解したAβ1-42。B、アルツハイマー病患者脳より緩衝液不溶性でギ酸にて抽出可能なAβアミロイドを陽性ハイブリドーマ細胞培養物の上清を用いて免疫沈降させ、免疫複合体をプロテイン-Gアガロース(Amersham)で選択的に分離した。試験した9種のクローンのうち、レーン2(赤色の星印)は1A9であり、レーン6は2C3である(赤色の二重星印)。C、馴化培地のSECでの溶出プロフィール。SEC収集した24画分のうち、画分8、13および16を1A9免疫沈降に供した。Aβ免疫反応性は4G8によって検出した。赤色の矢印はトリマーを示し、白色のものはダイマーを示す。*は抗マウスIgGの軽鎖を示す。 1A9または2C3の抗毒性活性を示す写真およびグラフである。A-F、抗体の非存在下または存在下で、シードフリーAβ1-42に37℃で48時間曝露処理したNGF処理PC12(PC12N)細胞の代表的画像(各パネルの左半分)。生細胞が緑の染色を示し、死細胞が赤の染色を示している、代表的なカルセインAM/PI染色(各パネルの右半分)。G、シードフリーAβ1-42(25μM)で曝露処理した細胞生存度:非特異的IgG2b(■黒四角);4G8(△白三角);1A9(□白四角);2C3(●黒丸)。 1A9または2C3が標的とする毒性Aβ重合体のサイズと形態的特徴を示す写真およびグラフである。A、Aβ1-42の540,000×g上清(25μM)を、分子量カットオフ値が3、10、30および100 kDa(Microcon)の膜限外濾過膜を使用し、連続分子篩い工程に供した。この結果分画した4種の濾液を以下の通りに命名した:画分1(<3 kDa)、画分2(3~10 kDa)、画分3(10~30 kDa)および画分4(30~100 kDa)ならびに最終的な保持液画分5(>100 kDa)。以上の画分全てにおけるAβ1-42の存在を4G8イムノブロットにより逐次的に調べた。B、5種の画分により37℃で48時間処理したNGF処理PC12(PC12N)細胞の代表的画像。それぞれの画分の毒性は図2の記載の通りに評価した。C、Aβ1-42の540,000×g上清および5種の画分(画分1~5)で処理した細胞生存度。2つの独立した実験によって同様の結果が得られた。値は対照に対するパーセンテージ(平均±SD)として表されている。D、5種の画分(画分1~5)のドットブロット解析。ブロットはA11、1A9、2C3および4G8と反応させた。E、5種の画分のAFM画像。最も毒性が強い画分5(Fr.5)では粒状分子に加え、輪状や数珠状の形態も観察された。 1A9または2C3のAβアミロイド線維形成抑制活性を示す写真およびグラフである。A、種々の濃度(10、25、50μM)でのAβ1-42のアミロイド線維形成を、37℃で最長72時間まで、ThTアッセイにてモニターした:10μM(□白四角);25μM(◆黒菱);50μM(○白丸)。B、Aβ1-42のアミロイド線維形成の共存抗体用量依存的阻害が2C3(○)で観察されたが、1A9(□白四角)、4G8(▲黒三角)および非特異的IgG(■黒四角)のいずれの抗体もシードフリーAβ1-42(540,000×gによるThT陰性上清)の線維形成性重合を阻害しなかった。C、Aβ1-42の線維形成性重合の共存抗体用量依存的阻害が2C3(○)で観察され、3μMにおいては、1A9(□白四角)でもほぼ完全阻害が観察された。D、あらかじめ24時間インキュべートしAβ1-42のアミロイド線維形成を形成させた後に加えたいずれの被験抗体も、Aβ1-42のアミロイド線維を溶解したり、脱重合させることはできなかった。E~G、2C3および1A9の非存在下(パネルE)ならびに存在下(それぞれパネルF、パネルG)における、Aβ1-42のEM画像。 毒性関連Aβ1-42オリゴマーに関する写真およびグラフである。A、ドットブロットアッセイ(パネルAの上半分):37℃で指定の時間(0~72時間)にわたってインキュベートしたAβ1-42モノマー(25μM)をニトロセルロース膜上に固相化し、A11、1A9、2C3または4G8を用いるドットブロットアッセイに供し、各抗体の免疫活性陽性構造体の出現を検証した。免疫活性強度分析(パネルAの下半分):ドットブロットアッセイの結果をMulti Gauge v3.0ソフトウエア(Fuji Film, Tokyo)によって半定量分析した。オリゴマー形成とアミロイド線維形成の関連を比較するため、ThT蛍光値(右側のY軸)を同じ時間軸で重ね合わせ表示した。B、37℃で0, 2, 4, 24時間インキュベーション時のAβ1-42重合状態とさらに48時間インキュベーション施行時のAβ1-42重合変化。Aβ1-42重合状態は4G8イムノブロットにて検出。C、上記種々のAβ1-42重合体の毒性活性。神経細胞の生存度は図2の記載の通りにLIVE/DEADアッセイによって判定した。D、1A9または2C3の抗神経毒性活性を種々のAβ重合体(37℃, 0, 2時間で形成されたAβ1-42重合体[0h, 2h];2hの540,000×g超遠心後回収したThT陽性上清[2h sup])を用いて検証した。抗体の非存在下または存在下で種々のAβ1-42重合体に曝露処理したPC12N細胞の代表的画像をパネルDの左半分に示す(a:0h; b:2h; c:2h sup; d:2h sup + IgG2b; e: 2h sup + 1A9; f: 2h sup + 2C3)。抗体の非存在下または存在下で種々のAβ1-42重合体に曝露処理した細胞生存度を対照に対するパーセンテージ(平均±SD)として表示し、パネルDの右半分に示した。Aβ1-42重合体(2h)はAβ1-42重合体(0h)に比し神経毒性を減じたが、2h supはAβ1-42重合体(0h)と同程度に神経毒性を回復した。非特異的IgG2bは、Aβ1-42重合体[2h sup]の神経毒性の誘導を遮断することができなかった。モノクローナル1A9は2h sup誘発性神経毒性を完全に阻害したが、2C3の毒性阻害能はやや劣っていた。一方、モノクローナルいずれの実験においても、両方のmAbの抗毒性活性はmAbとAβとのモル比が1:25~50未満で観察され、このことは構造的に異なるオリゴマー性1A9または2C3重合体が比較的低い濃度で存在することを示唆している。 可溶性1A9または2C3オリゴマーがヒト脳内に存在することを示す写真およびグラフである。Aβオリゴマーに対する抗体は、プロテアーゼ-K前処理後のみ、AD脳内の老人斑および血管アミロイド検出が可能である。A、1A9染色;B、2C3染色;C、A11染色。D、緩衝液可溶性AD脳(レーン1~2、4~5)および健常対照脳(レーン3、6)における1A9または2C3免疫沈降Aβの4G8イムノブロット。パネルの左半分に1A9、パネルの右半分に2C3の代表的結果を示す。EおよびF、健常高齢集団の剖検症例50例(Braak NFTステージI~II、n=35;Braak NFTステージIII~IV、n=13、Braak NFTステージ>IV、AD症例、n=2)から入手したヒト内嗅領皮質における、可溶性1A9免疫反応性12-mer(パネルE)および可溶性2C3免疫反応性12-mer(パネルF)の半定量的分析(アクチンで補正)。 可溶性1A9または2C3オリゴマーがヒトCSF中に存在することを示すグラフである。パネルAおよびBではプールした全脳脊髄液(pooled whole CSF)(AD=10, NC=10)を、パネルCおよびDではプールしたリポタンパク質除去脳脊髄液(pooled lipoprotein-depleted CSF) (AD=10, NC=10)をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に供した。パネルAおよびBにおいては、収集画分をBNT77-BA27, BNT77-BC05 ELISAsにてAβ4OモノマーおよびAβ42モノマー分布を解析した。パネルCおよびDでは、1A9・2C3混合抗体で捕捉されたAβ40オリゴマーおよびA42オリゴマーの存在を示す。 図7-1の続きの図である。オリゴマー性1A9重合体量(1A9-BC05, 1A9-BA27 ELISAs)または2C3重合体量(2C3-BC05, 2C3-BA27 ELISAs)をAD 12例(○白丸)およびNC 13例(●黒丸)で測定した(パネルEおよびG)。オリゴマーとモノマーとの比はそれぞれ図F(1A9)およびH(2C3)に示した。 受動免疫処置によってTg2576マウスの記憶障害発症が予防できることを示すグラフである。13カ月齢のTg2576マウスを以下の3群に分けて学習・行動試験を施行した:PBS投与群、n=10;1A9投与群、n=13;2C3投与群、n=11。各測定値は全て平均±SEで示した。(A)Y迷路試験。Y迷路タスクにおける8分間のセッション中での自発的変化行動を各群で測定した。一元配置ANOVAによる結果は以下の通りである:F(1, 52)=3.09、p<0.05、* PBSを投与したTg2576マウスとの比較でp<0.05。(B)新規物体認識試験。保持セッションは訓練24時間後に行った。新規物体認識試験における10分間のセッション中での探索優先度(exploratory preference)を各群で測定した。二元配置ANOVAによる結果は以下の通りであった:訓練/保持、F(1,64)=31.53、p<0.01;動物群、F(2,64)~7.49、p<0.01;動物群による訓練/保持の反復、F(2,64)=10.12、p<0.01;** 対応する非訓練マウスとの比較でp<0.01。## PBSを投与したTg2576マウスとの比較でp<0.01。(C)水迷路試験における60秒間のセッション中での遊泳路程の長さを各群で測定した。二元配置ANOVAによる結果は以下の通りであった:試行、F(9,320)=20.46、p<0.01;動物群、F(2,320)=12.59、p<0.01;動物群による試行の反復、F(18,320)=1.78、p<0.05;p<0.05、** PBSを投与したTg2576マウスとの比較でp<0.01。条件付け恐怖学習試験:文脈依存的(D)および手がかり依存的なすくみ時間(E)を測定した。二元配置ANOVAによる結果は以下の通りであった:文脈依存試験、F(2,32)=5.94、p<0.01、手がかり依存試験、F(2,32)=7.33、p<0.01;* PBSを投与したTg2576マウスとの比較でp<0.05、**は同じくp<0.01。 受動免疫療法でTg2576脳内Aβ蓄積予防が可能であることを示す写真およびグラフである。13カ月齢のTg2576マウス3群(PBS投与群、n=10;1A9投与群、n=13;2C3投与群、n=11)の海馬・大脳皮質を3段階連続抽出し、緩衝液可溶性(saline-soluble)画分、SDS可溶性(SDS-soluble)画分、蟻酸抽出(FA-extractable)画分を準備した。各画分をAβ特異的ELISAs(WAKO kit: BNT77-BA27 for Aβx-40; BNT77-BC05 for Aβx-42)にて測定したところ、1A9治療群においてのみSDS40/42, FA40蓄積が有意に抑制されていることが明らかとなった。SDS可溶性大脳皮質画分ではA11陽性オリゴマー(4-mer)の蓄積抑制効果が両抗体治療群で確認された。 Tg2576の血漿および脳におけるAβオリゴマーについて示す写真およびグラフである。A、B、ELISA分析の結果、血漿中におけるAβx-40およびAβx-42の量はPBS投与群と免疫治療群とを比較しても有意な変化は確認されなかった。C、Aβ40/Aβ42の比も同様に、試験を行った3群で変化は見られなかった。D、プールした脳ホモジェネートを用いたドットブロットで分析した結果、生理食塩水溶解性A11陽性オリゴマーの量は、試験した3群で変化は見られなかった:海馬(左パネル)および大脳皮質(右パネル)。PBS投与群(n=10)、1A9投与群(n=13)、2C3投与群(n=11)。E、抗オリゴマー抗体A11を用いた免疫ブロット分析によると、SDS抽出大脳皮質分画(右パネル)におけるAβテトラマーの免疫反応が、PBS投与群に比べて1A9もしくは2C3投与群において減少していた。一方、海馬(左パネル)ではこのような現象は確認されなかった。F、各群内で血液(アルブミン除去血漿、パネルF上段;アルブミン・リポ蛋白除去血漿、パネルF下段)をプールし、A11ドットブロット解析を施行した結果、PBS投与群に比し、1A9及び2C3投与群でA11免疫活性増加を認めた(パネルF)。また、2C3オリゴマーはリポ蛋白結合型として存在する比率が1A9オリゴマーより多かった(パネルF下段)。さらに、A11イムノブロットでも約200 kDaに陽性を認め、その免疫活性はPBS投与群に比し、1A9及び2C3投与群で明らかに増加した(パネルG)。この結果は、抗体投与群において、生理的分子に影響を及ぼすことなく標的となるAβオリゴマー分子のみに選択的な治療効果が発現された結果と捉えることが可能である。 受動免疫処置によりTg2576マウス脳内の老人斑アミロイド(A:Aβ特異的抗体染色、B:チオフラビン-S陽性分析)と腫大変性神経突起形成が抑制されたこと(C:シナプトフィジン陽性分析)を示す図および写真である。 1A9または2C3の受動免疫処置によるシナプス変性抑制について示す写真である。前または後シナプス性点状周辺細胞におけるシナプトフィジン(左パネル)またはドレブリン(右パネル)による免疫染色。上図:PBS投与、中図:1A9投与、下図:2C3投与。 受動免疫処置による抗体の脳内移行について示す写真である。Tg2576マウス脳内に投与抗体の分布写真。抗Aβ抗体による染色像(左パネル)、IgG染色像(中央パネル)。1A9投与(A)、2C3投与(B)、PBS投与(C)。 モノクローナル2C3、E12、1C10(アイソタイプ:IgM)および4D3は、オリゴマー(3-96 h)特異的でモノマー(0 h)を認識しないことをドットブロット解析にて確認した写真である。 遺伝子組み換えによりIgMからIgG2bにクラス変更したE12抗体がAβモノマー(0 hr)を認識せず、Aβオリゴマー(3-96 hr)特異的であることをドットブロット解析にて確認した写真である。 遺伝子組み換えによりIgMからIgG2bにクラス変更したE12抗体のAβアミロイド線維形成抑制活性を示すグラフである。Aβ1-42(12.5μM)溶液に3段階の濃度で抗体を添加し37℃で24時間保温後、ThT蛍光強度測定法にてAβアミロイド線維形成量を測定した。横軸は添加した抗体量、縦軸は抗体無添加Aβアミロイド線維形成量を基準に抗体添加時のアミロイド線維形成量を相対化した数値を示している。

[0015]
[発明の実施の形態]
 以下本発明をさらに詳細に説明する。
 本発明者らは、上述のように、Aβオリゴマーに特異的に結合しAβモノマーに結合しない抗体を得ることに成功した。即ち本発明は、Aβオリゴマーに結合し、Aβモノマーに結合しないことを特徴とする抗体、を提供する。このような抗体は、単離された抗体または精製された抗体であることが好ましい。

[0016]
 本発明の物質(抗体等)において使用される「単離された」および「精製された」という用語は、その物質が、天然供給源に含まれているかもしれない少なくとも一つの物質を実質的に含まないことを示す。従って、「単離された抗体」または「精製された抗体」とは、その抗体(タンパク質)が由来する細胞または組織供給源からの炭化水素、脂質、もしくはその他の混入タンパク質のような細胞材料を実質的に含まないか、または、化学合成された場合には、化学前駆物質もしくはその他の化学物質を実質的に含まない抗体を指す。好ましい態様において、本発明の抗体は、単離または精製されている。

[0017]
 「抗体」とは、同一の構造的特徴を有する糖タンパク質である。抗体は、特定の抗原に対し結合特異性を示す。ここで「抗原」とは、対応する抗体との結合能力を有しており、かつ抗原-抗体反応をインビボで誘導するタンパク質を指す。

[0018]
 アミロイドの主要構成成分であるAβタンパク質とは、40-42アミノ酸からなるペプチドで、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein; APP)という前駆体タンパク質から、プロテアーゼの作用によって産生されることが知られている。APPから生成されるアミロイド分子には、超遠心沈査画分に回収されるアミロイド線維とは別に、可溶性のモノマーに加えオリゴマーの非線維性重合体がある。本発明における「Aβオリゴマー」とは、非線維性重合体を指すものである。本発明における「Aβオリゴマー」には、例えばAβ40(Aβ1-40)オリゴマー、Aβ42(Aβ1-42)オリゴマーが含まれる。例えば本発明における「Aβ42オリゴマー」とは、SDS-PAGEでは分子量45~160 kDa、Blue Native-PAGEでは分子量22.5~1,035 kDaの分子である。分子篩では主に>100 kDa保持液に回収され、原子間力顕微鏡で高さ1.5-3.1 nmの粒状分子、数珠状分子、輪状分子が混在した形態を呈す。ゲル濾過法では分子量>680 kDa以上のvoid volume画分8と分子量17-44 kDa境界の画分15に溶出された。

[0019]
 本発明で用いられる抗体は、Aβオリゴマーに結合し、Aβモノマーに結合しない抗体であればよく、その由来および形状については制限されない。

[0020]
 本発明における「抗体」には、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の両方が含まれる。また、本発明の抗体には、非ヒト動物抗体、ヒト化抗体、キメラ化抗体、ヒト抗体、後述の低分子化抗体、アミノ酸配列が改変された抗体、他の分子(例えば、ポリエチレングリコールなどの高分子等)が結合した修飾抗体、糖鎖が改変された抗体など如何なる抗体も含まれる。

[0021]
 本明細書における「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質の抗体の集団から入手される抗体を指す。即ち、集団を構成する個々の抗体は、微量存在するかもしれない起こりうる天然変異を除いて、同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原性部位に対応するものである。さらに、異なる抗原決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含んでいる従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対応する。

[0022]
 上述の特異性に加え、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンが混入していないハイブリドーマ培養物によって合成され得るという点で有利である。従って、「モノクローナル」とは、実質的に均質な抗体集団から入手されるような抗体の特徴を示し、かつ、任意の特定の方法による抗体の作製を必要とすると解釈されてはならない。

[0023]
 モノクローナル抗体の作製は、基本的には公知技術を使用して作成が可能である。例えばKohlerおよびMilstein(Nature 256:495-7, 1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製されてもよいし、または組み換えDNA法(Cabilly et al., Proc Natl Acad Sci USA 81:3273-7, 1984)によって作製されてもよいが、これら方法によって限定されるものではない。例えばハイブリドーマ法を用いる場合、Aβオリゴマー(例えば、実施例に記載のようにAβテトラマー)を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。

[0024]
 本願発明におけるモノクローナル抗体は、以下のようにして作成することができる。まず合成Aβ1-42(ペプチド研、大阪)を蒸留脱イオン水または10 mM リン酸緩衝液中に溶解させ、それを37℃で18時間インキュベート後、4-12% SDS-PAGEにてペプチドを分離し、CBB染色にて可視化後、Aβ1-42モノマーの混入のないAβ1-42テトラマーのみを切り出す。次いでBALB/cマウスの肉趾に対して、完全フロイントアジュバントにより乳化させた2.5μgのAβ1-42テトラマーによる免疫処置を行い、続いてさらに6回の追加免疫を行う。鼠径リンパ節を用いて、ポリエチレングリコール1500を用いたSp2/O-Ag14細胞との融合によってハイブリドーマを作製する。

[0025]
 本発明において、感作抗原で免疫される動物は、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択すればよく、一般に、げっ歯類、ウサギ目、または霊長類が使用される。げっ歯類には、例えばマウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目には、例えばウサギが含まれる。霊長類には、例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Macaca mulatta)、マントヒヒ、およびチンパンジーなどの狭鼻猿類(旧世界)サルが含まれる。

[0026]
 感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内や皮下に注射することにより行われる。

[0027]
 前記免疫細胞と融合を行う他方の親細胞として、後述の実施例に記載されるSp2/O-Ag14細胞が例示されるが、他にも公知の種々の細胞株を用いることができる。

[0028]
 前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler G. and Milstein C., Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて行うことができる。

[0029]
 このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。上記HAT培養液での培養は、通常、数日から数週間、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングを行う。

[0030]
 その後、得られたハイブリドーマをマウスの腹腔に移植して、目的のモノクローナル抗体を含む腹水を抽出する。例えば、アフィニティクロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動などを含むがこれらに限定されない。カラムクロマトグラフィーの選択された組み合わせを含む、従来のタンパク質分離法および/または精製法によって、抗体を腹水から精製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and David, Lane (edit.), Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。

[0031]
 プロテインAカラムおよびプロテインGカラムをアフィニティカラムとして使用することができる。使用される例示的なプロテインAカラムには、Hyper D、POROS、およびSepharose F.F.(Pharmacia)が含まれる。

[0032]
 クロマトグラフィー(アフィニティクロマトグラフィーを除く)には、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、および吸着クロマトグラフィーが含まれる("Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual" Daniel R Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。HPLCやFPLCなどの液相クロマトグラフィーの手順に従って、クロマトグラフィーを実施することができる。

[0033]
 このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養が可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。

[0034]
 また抗体産生用の免疫原を用いて任意の哺乳動物を免疫化することができる。しかしながら、ハイブリドーマを産生することによりモノクローナル抗体を調製する場合には、ハイブリドーマ産生用の細胞融合において用いる親細胞との適合性を考慮することが好ましい。

[0035]
 一般に、そのような免疫化には、げっ歯類、ウサギ目、または霊長類が使用される。げっ歯類には、例えばマウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目には、例えばウサギが含まれる。霊長類には、例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Macaca mulatta)、マントヒヒ、およびチンパンジーなどの狭鼻猿類(旧世界)サルが含まれる。

[0036]
 この他にも、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを含むトランスジェニック動物の使用は、当技術分野において公知である(Ishida I, et al., Cloning and Stem Cells 4: 91-102, 2002)。その他の動物と同様に、ヒトモノクローナル抗体を入手するためには、トランスジェニック動物を免疫化し、次いで、抗体産生細胞を動物から収集し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得て、これらのハイブリドーマから抗タンパク質ヒト抗体を調製し得る(国際公報第92-03918号、第94-02602号、第94-25585号、第96-33735号、および第96-34096号参照)。

[0037]
 または、癌遺伝子により不死化されたリンパ球が、モノクローナル抗体産生のために使用され得る。例えば、EBウイルス等により感染されたヒトリンパ球が、免疫原によりインビトロで免疫化され得る。次いで、免疫化されたリンパ球を、無限に分裂し得るヒト由来骨髄腫細胞(U266等)と融合させ、このようにして、所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを入手する(日本国特許出願公開公報(JP-A)昭 63-17688)。

[0038]
 一旦、前記の方法のうちのいずれかを介してモノクローナル抗体を得ることができれば、それは、遺伝子操作法を使用しても調製され得る(例えば、Borrebaeck CAK and Larrick JW, Therapeutic Monoclonal Antibodies, MacMillan Publishers, UK, 1990参照)。例えば、組換え抗体は、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫化されたリンパ球のような抗原産生細胞から目的の抗体をコードするDNAをクローニングし、次いで、クローニングされたDNAを適切なベクターに挿入し、ベクターを適当な宿主細胞に形質転換することにより調製され得る。そのような組換え抗体も本発明に包含される。

[0039]
 本発明におけるモノクローナル抗体としては、例えば1A9モノクローナル抗体、2C3モノクローナル抗体、E12モノクローナル抗体、1C10モノクローナル抗体、4D3モノクローナル抗体を挙げることができる。好ましくは、以下の(i)~(iii)のいずれかに記載の抗体である。

[0040]
(i)配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するH鎖(重鎖)、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するL鎖(軽鎖)を含む抗体
(ii)配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するH鎖(重鎖)、および配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するL鎖(軽鎖)を含む抗体
(iii)配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するH鎖(重鎖)、および配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するL鎖(軽鎖)を含む抗体

[0041]
 なお本発明の抗体の一つの態様として、低分子化抗体を挙げることもできる。低分子化抗体は、全長抗体の一部分が欠損している抗体断片を含み、抗原への結合能を有していれば特に限定されない。抗体断片としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fvなどを挙げることができる。また、低分子化抗体としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(single chain Fv)、Diabody、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)などを挙げることができる。

[0042]
 ここで、本発明のタンパク質に対するポリクローナル抗体を得るには、血清中の所望の抗体レベルが上昇したことを確認した後、抗原を感作した哺乳動物の血液を取り出す。この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用してもよいし、必要に応じこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離して、これを使用してもよい。例えば、本発明のタンパク質をカップリングさせたアフィニティーカラムを用いて、本発明のタンパク質のみを認識する画分を得て、さらにこの画分をプロテインAあるいはプロテインGカラムを利用して精製することにより、免疫グロブリンGあるいはMを調製することができる。

[0043]
 本発明において、Aβオリゴマーと結合する抗体は、1A9、2C3、E12、1C10または4D3が結合するAβオリゴマーと結合する抗体であり、好ましくは以下の(A)~(C)のいずれかに記載の抗体である。

[0044]
(A)配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するH鎖(重鎖)、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するL鎖(軽鎖)を含む抗体が結合するAβオリゴマーと結合する抗体
(B)配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するH鎖、および配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体が結合するAβオリゴマーと結合する抗体
(C)配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するH鎖、および配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体が結合するAβオリゴマーと結合する抗体

[0045]
 また本発明は、本発明の抗体が結合するAβオリゴマーを提供する。抗体としては、好ましくは1A9モノクローナル抗体、2C3モノクローナル抗体、E12モノクローナル抗体、1C10モノクローナル抗体または4D3モノクローナル抗体を挙げることができる。このようなAβオリゴマーは、抗体を調整するための抗原や、ワクチンとして利用できる。

[0046]
 本発明における抗体の好ましい態様として、例えば以下の(1)~(20)のいずれかに記載の抗体を挙げることができる。

[0047]
(1)CDR1として配列番号:9に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:11に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:13に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(2)CDR1として配列番号:15に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:17に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(3)(1)に記載のH鎖、および(2)に記載のL鎖を含む抗体
(4)VHとして配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(5)VLとして配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(6)(4)に記載のH鎖、および(5)に記載のL鎖を含む抗体
(7)CDR1として配列番号:29に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:31に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:33に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(8)CDR1として配列番号:35に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:37に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:39に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(9)(7)に記載のH鎖、および(8)に記載のL鎖を含む抗体
(10)VHとして配列番号:25に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(11)VLとして配列番号:27に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(12)(10)に記載のH鎖、および(11)に記載のL鎖を含む抗体
(13)CDR1として配列番号:49に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:51に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:53に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(14)CDR1として配列番号:55に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:57に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:59に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(15)(13)に記載のH鎖、および(14)に記載のL鎖を含む抗体
(16)VHとして配列番号:45に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(17)VLとして配列番号:47に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(18)(16)に記載のH鎖、および(17)に記載のL鎖を含む抗体
(19)(1)から(18)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)から(18)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体
(20)(1)から(18)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープに結合する抗体

[0048]
 上記(1)に記載の「CDR1として配列番号:9に記載のアミノ酸配列(E12抗体のH鎖CDR1の配列)、CDR2として配列番号:11に記載のアミノ酸配列(E12抗体のH鎖CDR2の配列)、およびCDR3として配列番号:13に記載のアミノ酸配列(E12抗体のH鎖CDR3の配列)を有するH鎖」におけるVHとしては、配列番号:5に記載のアミノ酸配列(E12抗体のVHの配列)を有するVHが例示できる。

[0049]
 また、上記(2)に記載の「CDR1として配列番号:15に記載のアミノ酸配列(E12抗体のL鎖CDR1の配列)、CDR2として配列番号:17に記載のアミノ酸配列(E12抗体のL鎖CDR2の配列)、およびCDR3として配列番号:19に記載のアミノ酸配列(E12抗体のL鎖CDR3の配列)を有するL鎖」におけるVLとしては、配列番号:7に記載のアミノ酸配列(E12抗体のVLの配列)を有するVLが例示できる。

[0050]
 また、上記(7)に記載の「CDR1として配列番号:29に記載のアミノ酸配列(1C10抗体のH鎖CDR1の配列)、CDR2として配列番号:31に記載のアミノ酸配列(1C10抗体のH鎖CDR2の配列)、およびCDR3として配列番号:33に記載のアミノ酸配列(1C10抗体のH鎖CDR3の配列)を有するH鎖」におけるVHとしては、配列番号:25に記載のアミノ酸配列(1C10抗体のVHの配列)を有するVHが例示できる。

[0051]
 また、上記(8)に記載の「CDR1として配列番号:35に記載のアミノ酸配列(1C10抗体のL鎖CDR1の配列)、CDR2として配列番号:37に記載のアミノ酸配列(1C10抗体のL鎖CDR2の配列)、およびCDR3として配列番号:39に記載のアミノ酸配列(1C10抗体のL鎖CDR3の配列)を有するL鎖」におけるVLとしては、配列番号:27に記載のアミノ酸配列(1C10抗体のVLの配列)を有するVLが例示できる。

[0052]
 また、上記(13)に記載の「CDR1として配列番号:49に記載のアミノ酸配列(4D3抗体のH鎖CDR1の配列)、CDR2として配列番号:51に記載のアミノ酸配列(4D3抗体のH鎖CDR2の配列)、およびCDR3として配列番号:53に記載のアミノ酸配列(4D3抗体のH鎖CDR3の配列)を有するH鎖」におけるVHとしては、配列番号:45に記載のアミノ酸配列(4D3抗体のVHの配列)を有するVHが例示できる。

[0053]
 また、上記(14)に記載の「CDR1として配列番号:55に記載のアミノ酸配列(4D3抗体のL鎖CDR1の配列)、CDR2として配列番号:57に記載のアミノ酸配列(4D3抗体のL鎖CDR2の配列)、およびCDR3として配列番号:59に記載のアミノ酸配列(4D3抗体のL鎖CDR3の配列)を有するL鎖」におけるVLとしては、配列番号:47に記載のアミノ酸配列(4D3抗体のVLの配列)を有するVLが例示できる。

[0054]
 本発明におけるE12抗体のH鎖全長のアミノ酸配列を配列番号:1、塩基配列を配列番号:2、L鎖全長のアミノ酸配列を配列番号:3、塩基配列を配列番号:4、H鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列を配列番号:5、塩基配列を配列番号:6、L鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列を配列番号:7、塩基配列を配列番号:8、H鎖CDR1のアミノ酸配列を配列番号:9、塩基配列を配列番号:10、H鎖CDR2のアミノ酸配列を配列番号:11、塩基配列を配列番号:12、H鎖CDR3のアミノ酸配列を配列番号:13、塩基配列を配列番号:14、L鎖CDR1のアミノ酸配列を配列番号:15、塩基配列を配列番号:16、L鎖CDR2のアミノ酸配列を配列番号:17、塩基配列を配列番号:18、L鎖CDR3のアミノ酸配列を配列番号:19、塩基配列を配列番号:20に示す。

[0055]
 本発明における1C10抗体のH鎖全長のアミノ酸配列を配列番号:21、塩基配列を配列番号:22、L鎖全長のアミノ酸配列を配列番号:23、塩基配列を配列番号:24、H鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列を配列番号:25、塩基配列を配列番号:26、L鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列を配列番号:27、塩基配列を配列番号:28、H鎖CDR1のアミノ酸配列を配列番号:29、塩基配列を配列番号:30、H鎖CDR2のアミノ酸配列を配列番号:31、塩基配列を配列番号:32、H鎖CDR3のアミノ酸配列を配列番号:33、塩基配列を配列番号:34、L鎖CDR1のアミノ酸配列を配列番号:35、塩基配列を配列番号:36、L鎖CDR2のアミノ酸配列を配列番号:37、塩基配列を配列番号:38、L鎖CDR3のアミノ酸配列を配列番号:39、塩基配列を配列番号:40に示す。

[0056]
 本発明における4D3抗体のH鎖全長のアミノ酸配列を配列番号:41、塩基配列を配列番号:42、L鎖全長のアミノ酸配列を配列番号:43、塩基配列を配列番号:44、H鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列を配列番号:45、塩基配列を配列番号:46、L鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列を配列番号:47、塩基配列を配列番号:48、H鎖CDR1のアミノ酸配列を配列番号:49、塩基配列を配列番号:50、H鎖CDR2のアミノ酸配列を配列番号:51、塩基配列を配列番号:52、H鎖CDR3のアミノ酸配列を配列番号:53、塩基配列を配列番号:54、L鎖CDR1のアミノ酸配列を配列番号:55、塩基配列を配列番号:56、L鎖CDR2のアミノ酸配列を配列番号:57、塩基配列を配列番号:58、L鎖CDR3のアミノ酸配列を配列番号:59、塩基配列を配列番号:60に示す。

[0057]
 上記(1)から(20)に記載の抗体には、一価抗体だけでなく、二価以上の多価抗体も含まれる。本発明の多価抗体には、全て同じ抗原結合部位を有する多価抗体、または、一部もしくは全て異なる抗原結合部位を有する多価抗体が含まれる。

[0058]
 上記(19)に記載の抗体の好ましい態様は、CDRに改変が生じていない抗体である。一例として、上記(19)に記載の抗体のうち、「(1)に記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)に記載の抗体と同等の活性を有する抗体」の好ましい態様は、「(1)に記載の抗体と同等の活性を有し、(1)に記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、CDR1として配列番号:9に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:11に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:13に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体」である。上記(19)に記載の抗体のうち、その他の抗体の好ましい態様も同様に表現することができる。

[0059]
 ここで「同等の活性」とは、対象となる抗体が本発明の抗体と同様の生物学的あるいは生化学的活性を有することを指す。本発明における「活性」としては、例えば、Aβオリゴマーに特異的に結合しAβモノマーに結合しない活性、抗神経毒性活性、Aβアミロイド線維形成抑制活性、抗シナプス毒性活性、抗記憶障害活性を例示することができる。

[0060]
 あるポリペプチドと同等の活性を有するポリペプチドを調製するための、当業者によく知られた方法としては、ポリペプチドに変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Proc Natl Acad Sci USA. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて、本発明の抗体に適宜変異を導入することにより、該抗体と同等の活性を有する抗体を調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。このように、本発明の抗体のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が変異したアミノ酸配列を有し、該抗体と同等の活性を有する抗体もまた本発明の抗体に含まれる。このような変異体における、変異するアミノ酸数は、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内)であると考えられる。

[0061]
 変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。

[0062]
 一般に、あるアミノ酸配列における一つまたは複数個のアミノ酸残基により修飾(欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換)されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、その生物学的活性(機能)を維持することは公知である。

[0063]
 上述の修飾に加え、本発明の抗体は、活性を保持している限り、他の物質にさらに連結されていてもよい。他の物質としては、例えばペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマー等が挙げられる。これらの修飾は、付加的な機能を付与するか、または抗体を安定化するために実施され得る。

[0064]
 本発明の抗体のアミノ酸配列に複数個のアミノ酸残基が付加された抗体には、これら抗体を含む融合タンパク質が含まれる。融合タンパク質とは、これら抗体と他のペプチド又はタンパク質とが融合したものである。融合タンパク質を作製する方法は、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドと他のペプチド又はポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、当業者に公知の手法を用いることができる。本発明の抗体との融合に付される他のペプチド又はポリペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210 )、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-mycの断片、VSV-GPの断片、p18HIVの断片、T7-tag、HSV-tag、E-tag、SV40T抗原の断片、lck tag、α-tubulinの断片、B-tag、Protein C の断片等の公知のペプチド、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、イムノグロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が挙げられる。市販されているこれらペプチドまたはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドと融合させ、これにより調製された融合ポリヌクレオチドを発現させることにより、融合ポリペプチドを調製することができる。

[0065]
 本発明の抗体は、産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られた抗体が、本発明の抗体と同等の活性を有している限り、本発明に含まれる。

[0066]
 (1)から(18)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープに結合する抗体は当業者に公知の方法により得ることが可能である。例えば、(1)から(18)のいずれかの抗体が結合するエピトープを通常の方法により決定し、該エピトープに含まれるアミノ酸配列を有するポリペプチドを免疫原として抗体を作製する方法や、通常の方法で作製された抗体のエピトープを決定し、(1)から(18)のいずれかの抗体とエピトープが同じ抗体を選択する方法などにより得ることができる。

[0067]
 上記(1)から(20)に記載の抗体には、上述の低分子化抗体、ヒト化抗体やキメラ化抗体などのアミノ酸配列が改変された抗体、非ヒト動物抗体、ヒト抗体、他の分子(例えば、ポリエチレングリコールなどの高分子等)が結合した修飾抗体、糖鎖が改変された抗体、など如何なる抗体も含まれる。

[0068]
 本発明における抗体の好ましい態様の一つとして、キメラ抗体又はヒト化抗体等の改変抗体を挙げることができる。より好ましい態様としては、可変領域がE12抗体、1C10抗体または4D3抗体由来の可変領域であり、かつ定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であることを特徴とするキメラ抗体、CDRがE12抗体、1C10抗体または4D3抗体由来のCDRであり、FRがヒトイムノグロブリン由来のFRであり、かつ定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であることを特徴とするヒト化抗体、を挙げることができる。なおこれらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。

[0069]
 キメラ抗体やヒト化抗体はヒト体内における抗原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する場合に有用である。
 キメラ抗体は、異なる動物由来の配列を組み合わせて作製される抗体であり、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体などである。キメラ抗体の作製は公知の方法を用いて行うことができる(例えば、Jones et al., Nature 321:522-5, 1986;Riechmann et al., Nature 332:323-7, 1988;およびPresta, Curr Opin Struct Biol 2:593-6, 1992参照)。例えば、まず、関心対象の抗体の可変領域またはCDRをコードする遺伝子が、抗体産生細胞のRNAからポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等によって調製される(例えば、Larrick et al., "Methods: a Companion to Methods in Enzymology", Vol. 2: 106, 1991;Courtenay-Luck, "Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies" in Monoclonal Antibodies: Production, Engineering and Clinical Application;Ritter et al. (eds.), page 166, Cambridge University Press, 1995, and Ward et al., "Genetic Manipulation and Expression of Antibodies" in Monoclonal Antibodies: Principles and Applications;Birch et al. (eds.), page 137, Wiley-Liss, Inc., 1995参照)。調製された可変領域をコードする遺伝子を、定常領域またはフレームワーク領域をコードする遺伝子と連結する。定常領域またはフレームワーク領域をコードする遺伝子は、CDRをコードする遺伝子と同様に決定され得、または既存の抗体の配列情報に基づき、それらを調製することも可能である。キメラ産物およびCDRグラフト産物をコードするDNA配列は、オリゴヌクレオチド合成技術を使用して、完全にまたは部分的に合成され得る。例えば、Jonesら(Nature 321:522-5, 1986)によって記載されたようなオリゴヌクレオチド用の合成が使用され得る。さらに、一部の場合には、部位特異的突然変異誘発およびポリメラーゼ連鎖反応の技術が、適宜、使用され得る。Verhoeyenら(Science 239: 1534-6, 1988)またはRiechmannら(Nature 332: 323-7, 1988)によって記載された既存の可変領域のオリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発のための技術が、可変領域の配列を修飾して、例えば、キメラ抗体の結合能力を増強するために利用され得る。さらに、必要であれば、例えば、Queenら(Proc Natl Acad Sci USA 86: 10029-33, 1989;WO 90/07861)によって記載されたような、T4 DNAポリメラーゼを使用した、ギャップを有するオリゴヌクレオチドの酵素的フィルイン(filling in)が使用され得る。

[0070]
 例えばCDRグラフト技術は、当技術分野において公知である("Immunoglobulin genes", Academic Press (London), pp260-74, 1989;Michael A et al., Proc Natl Acad Sci USA 91: 969-73, 1994)。この技術によると、ある抗体のCDRが、別の抗体のCDRと交換される。そのような交換を通して、前者の抗体の結合特異性が、後者の抗体のものへと変化する。そのようなキメラ抗体のうち、フレームワークアミノ酸がヒト抗体に由来するものは、「ヒト化抗体(CDRグラフト抗体)」と呼ばれる。ヒトの処置に抗体を使用する場合には、ヒト抗体またはヒト化抗体を使用することが好ましい。

[0071]
 一般的に、キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト化抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体のCDR(相補性決定領域)と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域および定常領域とからなる。

[0072]
 なお、キメラ抗体やヒト化抗体を作製した後に、可変領域(例えば、FR)や定常領域中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換等してもよい。

[0073]
 キメラ抗体における可変領域、又はヒト化抗体におけるCDRの由来は特に限定されない。

[0074]
 また、キメラ抗体およびヒト化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖としては、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cμ、Cδ、Cα1、Cα2、Cεが、L鎖としてはCκ、Cλが使用できる。これらの配列は公知である。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾することができる。

[0075]
 なお、本発明の抗体の抗原(Aβオリゴマー)への結合活性は、例えば吸光度測定法、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、および/または免疫蛍光法等を用いて行うことができる。ELISAでは、抗体をプレート上に固定し、それに対する抗原をプレートに添加し、次いで、抗体を産生する細胞の培養上清または精製抗体などの所望の抗体を含む試料を添加する。次に、一次抗体を認識しかつアルカリホスファターゼなどの酵素でタグ付加された二次抗体を添加し、プレートをインキュベーションする。洗浄後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加し、吸光度を測定して、目的試料の抗原結合能力を評価する。評価はBIAcore(Pharmacia)を用いて行われうる。

[0076]
 また本発明は、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物を提供する。

[0077]
 本発明者らによって、後述のように、モノクローナル1A9または2C3抗体が、アルツハイマー様表現型を予防するための治療用抗体の有望な候補であることが強く示唆された。例えば、記憶力低下は可溶性Aβオリゴマーによって引き起こされるシナプス機能不全に相当することが示されている[Klein WL, 2001, Trends Neurosci;Selkoe DJ, 2002, Science]。Aβオリゴマーの過度の蓄積および沈着は、アルツハイマー病を結果として引き起こす複雑な下流カスケードの引き金を引く可能性がある。もしそうであるならば、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物を用いた治療的介入は、この病的カスケードを遮断するのに有効な可能性があり、それはアルツハイマー病を治療することを可能にすると考えられる。

[0078]
 本発明において「治療」とは、疾患あるいは疾病による症状を呈する臓器、組織に対して、必ずしも完全な治療効果または予防効果を有する必要はなく、部分的な効果を有する場合であってよい。

[0079]
 本発明における「アルツハイマー病の治療」とは、アルツハイマー病によって生じ得る少なくとも1つの症状を改善することであり、例えば、認知機能障害の改善や抑制、老人斑形成の改善や抑制、シナプス機能不全の改善や抑制、脳組織中または血液中等におけるAβ蓄積の減少や抑制、等が挙げられる。ここで「認知機能障害」には、例えば、記憶障害とされる、長期/短期記憶障害、物体認識記憶障害、空間記憶障害、および連合情緒記憶障害が含まれる。

[0080]
 即ち、本発明は、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物を有効成分として含有する、医薬組成物あるいは薬剤を提供する。

[0081]
 本発明において、「上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物を有効成分として含有する」とは、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物を主要な成分として含むという意味であり、含有率を制限するものではない。

[0082]
 上記医薬組成物としては、例えば抗認知機能障害剤、アルツハイマー病治療剤、アルツハイマー病進行抑制剤、老人斑形成抑制剤、Aβ蓄積抑制剤、抗神経毒性剤(神経毒性中和剤)、Aβアミロイド線維形成阻害剤、抗シナプス毒性剤(シナプス毒性中和剤)等が挙げられる。

[0083]
 本発明における上記医薬組成物は、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物を対象(個体)に投与する工程を含む、例えば、「アルツハイマー病を抑制する方法」と表現することもできる。他の態様としては、認知機能障害を抑制する方法、アルツハイマー病の進行を抑制する方法、老人斑形成を抑制する方法、Aβの蓄積を抑制する方法、神経毒性活性を中和する(抑制する)方法、Aβアミロイド線維形成を阻害する方法、またはシナプス毒性活性を中和する(抑制する)方法も挙げることができる。さらに他の態様として、認知機能障害の予防および治療のいずれか、または両方のための方法、アルツハイマー病の予防および治療のいずれか、または両方のための方法も挙げることができる。

[0084]
 または、上記医薬組成物の製造における、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物の使用、と表現することもできる。

[0085]
 また本発明は、以下の各組成物に関する。
・認知機能障害の予防および治療のいずれか、または両方に使用するための、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物
・アルツハイマー病の予防および治療のいずれか、または両方に使用するための、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物
・アルツハイマー病進行抑制に使用するための、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物
・老人斑形成抑制に使用するための、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物
・Aβ蓄積抑制に使用するための、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物
・神経毒性活性中和(抑制)に使用するための、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物
・Aβアミロイド線維形成阻害に使用するための、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物
・シナプス毒性活性中和(抑制)に使用するための、上記本発明の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物

[0086]
 上記本発明の薬剤は、ヒトまたはその他動物に投与可能である。本発明において、薬剤を投与するヒト以外の動物には、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーが含まれ得る。これらの動物は、例えば認知機能障害、老人斑形成、シナプス機能不全、脳組織中または血液中におけるAβ蓄積、等の症状のうち少なくとも1つの症状を呈する動物であることが好ましい。

[0087]
 本発明の医薬組成物に含有される抗体は、上記本発明の抗体である限り特に制限はなく、例えば本明細書中に記載された抗体が例示できる。

[0088]
 上記本発明の抗体を医薬組成物として用いる場合には、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば必要に応じて、水または他の任意の薬学的に許容される液体で無菌性溶液もしくは懸濁液にすることによって、非経口的に投与されうる注射可能な形態へと調製することができる。例えば、医薬組成物に含まれるべき抗体を、許容される担体または溶媒、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと混合して、薬剤としての使用に必要な一般に許容される単位用量にすることができる。「薬学的に許容される」という用語は、その物質が不活性であり、かつ薬物用の希釈剤またはビヒクルとして使用される従来物質を含むことを示す。適切な賦形剤およびその製剤は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th ed. (1980) Mack Publishing Co., ed. Oslo et al.に記載されている。

[0089]
 生理食塩水、グルコース、およびアジュバント(D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムなど)を含む他の等張性溶液を、注射用水溶液として使用することができる。これらは、アルコール、具体的にはエタノールおよびポリアルコール(例えばプロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、ならびに非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(商標)またはHCO-50)などの適切な可溶化剤とともに使用することができる。

[0090]
 ゴマ油またはダイズ油を油性液体として用いることができ、これらと共に可溶化剤として安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを用いてもよい。緩衝液(リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、鎮痛薬(塩酸プロカインなど)、安定剤(ベンジルアルコール、フェノールなど)、および抗酸化剤を製剤に用いることができる。調製した注射液は適切なアンプルに充填することができる。

[0091]
 投与は好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。

[0092]
 医薬組成物は、薬学的に有効な量の活性成分(上記本発明の抗体)を含む。化合物の「薬学的に有効な量」とは、上記本発明の抗体が重要な役割を果たしている障害を処置および/または予防するのに十分な量である。薬学的に有効な量の例は、個体(患者)に投与された場合に、例えばAβの蓄積を減少、Aβ誘発性の毒性を中和、またはAβ原線維形成を減少させ、それによりアルツハイマー病によって生じる障害を処置または予防するために必要な量であり得る。減少あるいは中和は、例えば、少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%、75%、80%、90%、95%、99%、または100%の減少あるいは中和であり得る。

[0093]
 上記本発明の抗体のそのような薬学的に有効な量を決定するための査定は、組織病理学的な診断を含む標準的な臨床プロトコールを使用してなされ得る。

[0094]
 また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。抗体を含有する医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001~100000 mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。後述の動物実験では、ヒトで保険適応にある免疫グロブリン大量静注療法(400 mg/Kg)に準じて投与量を選択した。

[0095]
 また本発明は、サンプル中のAβオリゴマー(例えばAβ40(Aβ1-40)オリゴマーおよびAβ42(Aβ1-42)オリゴマーが挙げられる)を測定する方法を提供する。本発明における「サンプル」としては、例えば被験者から採取された試料が挙げられる。本方法には、具体的には、被験者から採取された試料に含まれるAβオリゴマーを、本発明の抗体を用いて検出する工程が含まれる。試料中のAβオリゴマーの測定は、例えば化学発光を利用するサンドイッチ固相酵素免疫アッセイ(化学発光-ELISA)による方法、および取得抗体での免疫沈降法、イムノブロット、フローサイトメトリー、質量分析法、免疫組織化学法などの方法を用いることができる。

[0096]
 上記測定方法によって、被験者から採取された試料中にAβオリゴマーが検出される場合に、被験者はアルツハイマー病候補であると考えられる。例えば、被験者と健常者のそれぞれから採取された試料中におけるAβオリゴマー量を比較し、被験者のAβオリゴマー量が健常者のAβオリゴマー量と比較して多いと判定される場合に、被験者がアルツハイマー病候補であると判断される。被験者がアルツハイマー病候補であるか否かの診断は、通常、医師(医師の指示を受けた者も含む。以下同じ。)によって行われるが、本診断方法によって得られる、被験者と健常者のそれぞれから採取された試料中におけるAβオリゴマー量に関するデータは、医師による診断に役立つものである。よって、本診断方法は、医師による診断に役立つデータを収集し、提示する方法とも表現しうる。
 即ち、本発明は、本発明に記載の抗体を用いて、被験者から採取された試料におけるAβオリゴマーを検出することを特徴とする、被験者がアルツハイマー病候補であるか否かを診断する方法を提供する。

[0097]
 また本発明は、以下の工程を含む、被験者がアルツハイマー病候補であるか否かを診断する方法であって、工程(b)に記載の比が健常者と比較して高い場合に、被験者がアルツハイマー病候補であると判定される方法を提供する。
(a)被験者から採取した試料、本発明に記載の抗体、およびAβモノマーに結合する抗体とを接触させる工程
(b)前記試料中におけるAβモノマーに対するAβオリゴマーの比を測定する工程

[0098]
 まず本方法においては、被験者から採取した試料、本発明に記載の抗体、およびAβモノマーに結合する抗体とを接触させる。ここで「接触」とは、例えば、試験管内における被験者から採取した試料に、上記各抗体を添加することにより行われうる。この場合において、添加される抗体の形状としては、溶液又は凍結乾燥等により得られる固体等の形状が適宜使用できる。水溶液として添加される場合にあっては純粋に抗体のみを含有する水溶液であってもよいし、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含む溶液であってもよい。抗体の添加する濃度は特に限定されない。例えば、ヒト免疫グロブリン製剤と同様に凍結乾燥状態で、500 mg, 1000 mg, 2,500 mg製剤などが好適に使用されうる。

[0099]
 次に、前記試料中におけるAβモノマーに対するAβオリゴマーの比(本願明細書では、「O/M指数」と記載する場合もある)を測定する。当該比の測定については、以下の方法が好適に使用される。例えば後述の実施例に記載されるように、同一検体から得られたオリゴマーとモノマーELISA値の比等の方法を用いて実施することができる。

[0100]
 次に、この比を、健常者の場合における比と比較する。そして健常者と比較して被験者の比が高い場合に、被験者がアルツハイマー病候補であると判定する。

[0101]
 本発明の診断方法はin vitro又はin vivoのどちらでも行なうことが可能であるが、in vitroで行なわれることが好ましい。

[0102]
 なお本発明における「試料」とは、好ましくは被験者由来の組織であれば特に制限されない。例えば被験者の脳(脳実質等)、臓器、体液(血液、脳脊髄液等)を挙げることができる。本発明において好ましくは血液(より好ましくは血漿)と脳脊髄液である。

[0103]
 また本発明は、上述のサンプル中のAβオリゴマーを測定する方法、あるいは被験者がアルツハイマー病候補であるか否かを診断する方法に用いるための薬剤を提供する。

[0104]
 本発明において、抗体を含む医薬組成物は、対象の病理学的状態を処置するために有用な材料を含有している製品およびキットに含まれ得る。製品は、ラベルを含む化合物のうちのいずれかの容器を含み得る。適当な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックのような多様な材料から形成されていてよい。容器表面のラベルは、疾患の一つまたは複数の状態を処置または予防するために組成物が使用されることを示しているべきである。ラベルは、投与のための説明等も示し得る。

[0105]
 上記の容器に加え、抗体を含む薬学的組成物を含むキットは、任意で、薬学的に許容される希釈剤を収納している第二の容器を含み得る。これは、その他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、注射器、および使用のための説明を含む包装挿入物を含む、商業上および使用者の見地から望ましいその他の材料をさらに含んでいてもよい。

[0106]
 必要に応じて、医薬組成物を、活性成分を含む一つまたは複数の単位用量剤形を含みうるパックまたはディスペンサー装置内に提供してもよい。パックは例えば、金属またはブリスタパックのようなプラスチックホイルを含んでもよい。パックまたはディスペンサー装置には、投与のための説明書を添付してもよい。

[0107]
 上記の薬剤やキットにおいては、有効成分である上記本発明の抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤、ブロッキング溶液、反応溶液、反応停止液、試料を処理するための試薬等が必要に応じて混合されていてもよい。

[0108]
 なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。

[0109]
 以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。

[0110]
[方法]
モノクローナル1A9、2C3、E12、1C10および4D3の作製
 合成Aβ1-42(ペプチド研、大阪)を蒸留脱イオン水または10 mM リン酸緩衝液中に溶解させ、それを37℃で18時間インキュベート後、NuPAGE Tris-Glycine gel 4-12% SDS-PAGEにてペプチドを分離し、CBB染色にて可視化後、Aβ1-42モノマーの混入のないAβ1-42テトラマーのみを切り出した。次いでBALB/cマウスの肉趾に対して、完全フロイントアジュバントにより乳化させた2.5μgのAβ1-42テトラマーによる免疫処置を行い、続いてさらに6回の追加免疫を行った。鼠径リンパ節を用いて、ポリエチレングリコール1500を用いたSp2/O-Ag14細胞との融合によってハイブリドーマを作製した。

[0111]
抗体アイソタイプ判定
 精製免疫グロブリンのアイソタイプ判定は、Serotec(Oxford, UK)マウスモノクローナル抗体アイソタイプ判定キットを用いて行った。1A9および2C3のアイソタイプはIgG2bであった。

[0112]
ドットブロット解析(一次スクリーニング)
 初期スクリーニングは、18時間プレインキュベートした2.5μlのAβ1-42(2.5μg/ドット)をニトロセルロース膜上に固相化するドットブロット解析で行った。膜上の非特異結合部位を5%低脂肪乳、1% BSA及び0.05%Tween-20を含有するリン酸緩衝液でブロッキング後、培養液上清とともにインキュベートした。培養上清中のAβオリゴマー結合抗体は西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスF(ab')2(1:3000;Amersham)で検出し、LAS3000 mini(Fujitsu, Tokyo, Japan)を用いる高感度化学発光(ECL)キットによって描出した。400種のクローンのうち、1A9および2C3を含むドットブロット陽性16種を下記の如く二次スクリーニングに供した。

[0113]
免疫沈降およびイムノブロット解析(二次スクリーニング)
 一次スクリーニングにて選択した16種のクローンがAD脳内のAβオリゴマーを捕捉しうるか否かを調べる二次スクリーニングのため、Aβオリゴマーを大量に含有するアミロイド分画(Matsubara E, et al, Neurobiol Aging, 2004)にて免疫沈降実験(Ghiso J, et al, Biochem J, 1993)を行った。AD脳から調整した緩衝液不溶性・蟻酸可溶性の画分に、培養液上清およびプロテイン-G-Sepharoseとインキュベートした。免疫沈降させたAβオリゴマーはNuPAGE 4-12% Bis-トリス-グリシンゲルによって分離し、10%メタノールを含む10 mM 3-シクロヘキシルアミノ-1-プロパンスルホン酸(pH 11)を用いて、ニトロセルロース膜またはImmobilon P(Millipore)上に400 mAで1時間転写した。膜上の非特異結合部位を5%低脂肪乳、1% BSA及び0.05%Tween-20を含有するリン酸緩衝液にて室温で3時間ブロッキングした。免疫沈降させたAβオリゴマーの検出は、モノクローナル4G8(1:1000)または6E10(1:1000)を用いたイムノブロットを前述の如く行い、16種のクローンのうち2種のクローン、すなわち1A9および2C3を、アルツハイマー病に対する治療用抗体の候補として選び出した。

[0114]
抗体
 モノクローナル抗体6E10および4G8(Covance Immuno-Technologies, Dedham, MA)はヒトAβ配列の1-16および17-24をそれぞれエピトープとして認識する。Aβオリゴマーを特異的に認識するポリクローナルA11は、Biosource社(Camarillo, CA)より購入した。Alex Fluor(AF)488または594結合ヤギ抗マウスIgGおよびAlex Fluor(AF)488結合ヤギ抗ラットIgGはMolecular Probes社(Eugene, OR)より購入した。抗マウスIgG2bはSigma社(St. Louis, MO)より購入した。抗シナプトフィジン抗体はSanta Cruz社(Santa Cruz, CA)より、抗ドレブリン抗体はMBL社(Nagoya, Japan)より購入した。

[0115]
サイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography, SEC)
 1A9または2C3のサイズ特異性をさらに評価するためにSECを行った。以前の報告[Matsubara E, et al; Neurobiol Aging, 25: 833-841, 2004]に記載の方法ではAβモノマーとAβオリゴマー、リポタンパク結合性Aβとリポタンパク非結合性Aβの選択的分離が可能であった。本発明者らはAPP/PS1を強発現させたHEK293細胞からの培養上清をMicrocon 3 kDa分子量カットオフフィルター(Millipore Corp.)を用いて約10倍に濃縮後、リン酸緩衝溶液によって平衡化したSuperose 12サイズ排除カラム(1 cm×30 cm、Pharmacia Biotech., Uppsala, Sweden、流速0.5 ml/分)で各1 mlの28画分を分画した。それぞれの画分の半分を1A9または2C3を用いて免疫沈降させた。その結果得られた免疫沈降物中に存在するAβは、4G8を用いたイムノブロットにて検出した。

[0116]
 アルツハイマー病患者とage-matched健常症例各10例のプールした脳脊髄液(CSF)とリポタンパク質除去CSFも同一の条件下で分画した。Aβの回収フラクションの同定は各画分のELISA解析によった。脂質の評価のためには、標準的なキット(Wako, Osaka, Japan)を用いて総コレステロールを酵素的に測定した。本発明者らの実験条件下では、CSFリポタンパク質は画分7~14中に溶出され、画分15~28はコレステロール非含有タンパク質を含んでいた。

[0117]
シードを含まないAβ溶液の調製
 合成Aβ1-42を0.02%アンモニア溶液中に250μMで溶解後、シードを含まないAβ溶液調整を目的に、シードとして作用する恐れのある溶解しなかったペプチドをOptima TL超遠心機(Beckman, USA)を用いて540,000 x gで3時間超遠心した。その上清を回収後分注し使用時まで-80℃で保存した。サンプル調整は使用直前に解凍したAβストック溶液をTris-緩衝食塩水(TBS:150 mM NaClおよび10 mM Tris-HCl、pH 7.4)で10倍希釈し、25μM溶液を以下の実験で使用した。合成Aβ1-40(HCL form,ペプチド研、大阪)では2倍濃度で調整を行った。

[0118]
AβインキュベーションおよびThTアッセイ(Yamamoto N, et al: J Biol Chem, 282: 2646-2655, 2007) 
 Aβ溶液(25μM)を指定濃度の抗体の存在下で、37℃で2時間または24時間インキュベートした。インキュベーション混合物におけるThT蛍光強度を蛍光分光光度計(RF-5300PC)(Shimadzu Co., Kyoto, Japan)を用いて測定した。5μM ThTおよび50 mMグリシン-NaOHを含むpH 8.5の反応混合物(1.0 ml)を用い、励起波長および発光波長をそれぞれ446 nmおよび490 nmとしてAβアミロイド線維の至適蛍光強度を測定した。蛍光強度は混合物を調製した直後に測定した。

[0119]
  また、E12抗体のAβアミロイド線維形成抑制活性は、細胞培養用の培地にて12.5μMの濃度に希釈したAβ1-42溶液をE12抗体の存在下または非存在下にて37℃で24時間保温後、上記ThT蛍光強度測定法にてアミロイド線維形成量を測定することにより評価した。

[0120]
Aβ誘発性神経毒性アッセイ(Yamamoto N, et al: J Biol Chem, 282: 2646-2655, 2007) 
 ラット褐色細胞腫PC12(PC12)細胞を、10%熱非働化ウマ血清(Invitrogen)および5%ウシ胎仔血清(FBS)(Invitrogen)を加えたDulbecco変法Eagle培地(DMEM)(Invitrogen, Carlsbad, CA)中で培養した。神経細胞へ分化誘導するため、ポリ-L-リジン(10 mg/ml)をコーティングした培養皿にPC12細胞を20,000個/cm2の密度でプレーティングし、100 ng/mlの神経成長因子を加えたDMEM中で6日間培養した(PC12N)(NGF;Alornone Labs, Jerusalem, Israel)。PC12Nに対して、1A9または2C3抗体の存在下または非存在下で、シードフリーAβ1-42またはプレインキュベートしたAβ1-42 各25μMを4℃で48時間にわたって曝露させた。Aβ1-42が惹起する神経毒性は、Live/Dead二色蛍光アッセイを製造元の指示(Molecular Probes, Eugene, Oregon)に従って評価した。

[0121]
 また、E12抗体のAβ誘発性神経毒性中和活性は以下の方法を用いて評価した。まず、ヒト神経芽種細胞(SH-SY5Y)を24well plateに150,000個/wellの密度で10%FBSを含むDMEM中で24時間培養した。次に、培地をE12抗体添加または無添加のAβ1-42(12.5μM)を含む血清不含培地に置き換えてさらに24時間培養した。Aβ1-42が惹起する細胞毒性は、培地中に放出された死細胞由来のLDHの量をCytoTox96キット(Promega社製)により測定した。

[0122]
限外濾過および分子篩
 神経毒性Aβオリゴマーの25μMでのサイズの特性を明らかにするために、Microcon 3 kDa、10 kDa、30 kDa、および100 kDaカットオフ膜を用いる連続的な限外濾過を行って、4種の濾液(<3 kDa、3~10 kDa、10~30 kDa、30~100 kDa)および1種の保持液(>100 kDa)を調製した。それぞれの画分を前述の如くAβ誘発性神経毒性アッセイに供した。PC12Nを各画分に曝露させ、毒性画分を上記の通りに評価した。A11、1A9、2C3または4G8認識立体構造体の分布同定も、前述したドットブロット解析により行った。神経毒性オリゴマーの形態の特定は、それぞれの画分を原子間力顕微鏡検査に供し行った。

[0123]
電子顕微鏡検査(EM)および原子間力顕微鏡検査(AFM)
 電子顕微鏡検査のためには、試料を蒸留水で希釈し、炭素コーティングしたグリッド上に散布した。グリッドを1%リンタングステン酸により陰性染色し、Hitachi H-7000電子顕微鏡(Tokyo, Japan)を加速電圧77 kVで用いて検査した。AFM評価は最近報告された通りに行った。試料を新たに劈開させた雲母上に滴下した。30分間そのまま置き、水で洗浄した後に、溶液状の試料を、タッピングモードに設定したNanoscope IIIa(Digital Instruments, Santa Barbara, CA, USA)を用いて評価した[Tero, R, et al., Langmuir 20, 7526-7531, 2004]。OMCL-TR400PSA(Olympus, Japan)をカンチレバーとして用いた。

[0124]
組織被験者および抽出
 本研究は、東京都老人総合研究所(Itabashi, Tokyo, Japan)の脳バンクによる剖検症例(n=50;男性26例、女性24例)を基にしている。この研究プロジェクトは、東京大学医学部、東京都老人総合研究所・東京都老人医療センター、および国立長寿医療研究所の施設内倫理委員会による承認を受けている。被験者および試料採取詳細は報告済みであるが、不溶性脳画分解析を特徴としている[Katsuno T, Neurology, 64: 687-692, 2005]。本プロジェクトにおいて、本発明者らは、過去の研究で特性が明らかにされていない可溶性脳画分を解析対象とした[Katsuno T, Neurology, 64: 687-692, 2005]。凍結組織試料(内嗅領皮質の前方部分)を、プロテアーゼ阻害剤カクテルを含む9倍量のTris-食塩水(TS)緩衝液中でホモジネート化した。このホモジネートを265,000×gで20分間超遠心後回収した上清の3分の1(0.5 ml)をイムノブロット分析に供した。

[0125]
免疫組織化学
 Tg2576マウスの脳の左半球を、凍結ミクロトーム(RM 2145;Leica, Wetzlar, Germany)を用いて、30μm厚切片として矢状方向に切断した。チオフラビン-S染色を以前に記載された通りに行った(Wyss-Coray et al, 2001)。腫大変性神経突起形成観察はシナプトフィジン抗体(Chemicon, Temecula, CA)を用いて行い、各マウスに関して、脳の左半球1つにつき4~5枚の切片におけるチオフラビン-S陽性斑とシナプトフィジン陽性腫大変性神経突起数を倍率40倍で算定した。Aβ沈着観察は連続切片を、ギ酸またはプロテアーゼ-Kによる短時間の前処理の後にAβ免疫染色キット(Sigma, St. Louis, MO)で行い、免疫陽性シグナルをABC eliteキット(Vector Laboratories)を用いて描出した。大脳皮質および海馬の画像を顕微鏡に接続したデジタルカメラを用いて取り込み、簡単なPCIソフトウエア(Compix Imaging System, Lake Oswego, OR)を用いて解析した。抗体の脳内移行は共焦点レーザー顕微鏡(Carl Zeiss LSM510)を用いて観察した。チオフラビン-S陽性斑とシナプトフィジン陽性腫大変性神経突起数定量は、二重盲検様式で報告した。

[0126]
受動免疫治療および行動分析
 3カ月齢の雌性非トランスジェニック(非Tg)マウス、および家族性ADのSwedish二重変異(K670N;M671L)を有するヒトAPP遺伝子を保有しかつ過剰発現するTg2576マウスをTaconics社(Germantown, NY, USA)から購入し、本発明者らの動物飼育施設で13カ月齢になるまで飼育した。受動免疫治療によってアルツハイマー様表現型が予防されるか否かを判定するために、4カ月齢Tg2576に対して、13カ月齢になるまで1A9または2C3(0.4 mg/kg/週)またはPBSを尾静脈内投与した。記憶機能は13カ月齢の時点で、以前の記載の通りに4通りの行動パラダイムに関して計測した(Mouri A, FASEB J, 21: 2135-2148, 2007):(1)Y迷路試験における短期記憶;(2)新規物体認識試験;(3)Morris水迷路試験;(4)手がかりつき恐怖条件付け試験。行動試験の終了から3日後にマウスを生化学的および組織学的な評価のために屠殺した。実験結果は一元配置ANOVAおよび二元配置ANOVAによって分析し、post-hoc分析にはFisher検定を用いた。

[0127]
リポタンパク質の分離および除去
 CSFの分離後に、AD患者12例およびNC13例において、600μlのCSFおよび以前に記載されたプロトコール[Matsubara E, et al; Ann Neurol, 45: 537-541, 1999]を用いた調製用連続密度浮遊超遠心分離により、リポタンパク質の除去を行った。CSFの密度をKBrにて1.25 g/mlに調整し、Hitachi RP100AT遠心機を用いて100,000 rpm、16℃にて8時間にわたり超遠心を行った。密度1.25 g/mlにおける浮遊リポタンパク質とその除去をおこなった下澄み液(LPD-CSF)両者を3 kDaカットオフ膜(Microcon 3;Arnicon, Inc)を用いる限外濾過に供し、使用時まで凍結下または4℃で保存した。

[0128]
 さらにPHML-LIPOSORB(Calbiochem, La Jolla, CA)を用いたアフィ二ティークロマトグラフィーにおいてもリポタンパク質の除去を行った。試料(血漿または脳)1.5に対してPHML-LIPOSORB(Calbiochem, La Jolla, CA)1の割合で60秒間混合後、3,000 rpmで10分間遠心で得られた上清(リポタンパク質除去試料)を、6E10オリゴマーELISAに供した。PHML-LIPOSORBと結合したリポタンパク質結合サンプルの溶出は、20 mMデオキシコール酸ナトリウムで行った。特異的リポタンパク質除去の確認は、1%アガロースゲル電気泳動(Beckmann)後のFAST-RED 7B(Wako, Osaka, Japan)染色で行った。

[0129]
ヒトAβの定量
 以前に詳細に記載された通りに[Matsubara E, et al, Ann Neurol, 537-541, 1999; Matsubara E, et al, Neurobiol Aging, 25: 833-841, 2004]、全血漿またはLPDP Aβ種を特異的に定量するためにサンドイッチELISAを用いた。脳Aβ種の分析のためには、100μlの緩衝液可溶性Aβ種をELISAにそのまま供し、70%ギ酸抽出物の形態にある不溶性Aβ試料は、ELISAの前に1 M Tris-HCl(pH 8.0)で中和して1:1000に希釈した。その結果得られた値を脳の湿重量で補正し、最終的にはpmol/グラムとして表した。全てのプレート上の3つの標準的な血漿試料を含めることにより、プレートを互いに標準化した。

[0130]
Aβオリゴマーに対して特異的なELISA
 モノマー性AβではなくAβオリゴマーを特異的に検出するために、化学発光を利用するサンドイッチ固相酵素免疫アッセイ(化学発光-ELISA)を用いた。マイクロプレートをモノクローナル1A9(IgG2bアイソタイプ)、2C3(IgG2bアイソタイプ)または1A9/2C3の混合物でコーティングし、100μlの異なる試料(脳・脳脊髄液)とともに4℃で24時間連続インキュベートした上で、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合BA27Fab'断片(抗Aβ1-40、Aβ40に対して特異的、Wako pure chemical, Osaka, Japan)または西洋ワサビペルオキシダーゼ結合BCO5 Fab'断片(抗Aβ35-43、Aβ42に対して特異的、Wako pure chemical, Osaka, Japan)とともに4℃で24時間インキュベートした。SuperSignal ELISA Pico化学発光基質(Pierce, Rockford, IL, USA)を用いて発生させた化学発光は、Veritasマイクロプレート照度計(Promega)にて定量した。

[0131]
 インビボでのモノクローナル1A9または2C3の末梢投与の有効性を評価するためには、投与マウスから入手した血漿および臓器におけるAβオリゴマー分析を、6E10-HRP標識6E10(Senetek PLC, Napa, CA, USA)ヒト特異的オリゴマーELISAを用いて行った。感度を高めるために、前述の化学発光システムによって検出した。リポタンパク結合性Aβモノマーが検出されることを避けるために、本発明者らは前述した記載の如くPHML-LIPOSORBを用いて、血漿または臓器からあらかじめリポタンパク除去したサンプルを測定に使用した。

[0132]
[実施例1]Aβオリゴマー特異的モノクローナル抗体(1A9および2C3)の作製
 溶液中においてはAβオリゴマーとモノマーとは混在して存在している。このため、Aβオリゴマー特異的抗体を得るための抗原の調製においては、Aβモノマーの除去が不可欠である。図1Aに示した様に、本発明者らはSDS-PAGE分析により、Aβモノマーの混入を伴わずにSDS安定性Aβテトラマーのみを単離することができた。単離したAβテトラマーによるインビボ免疫処置後の陽性ハイブリドーマクローン選択には、ドットブロット分析を行った後に免疫沈降処置を行う2段階のスクリーニングを採用した。ドットブロット分析に供した400種のクローンのうち、16種が陽性と判定された(陽性率=4%)。選択した陽性クローンのオリゴマー特異性を評価するために、AD脳由来のリン酸緩衝液不溶性で蟻酸(FA)には可溶性であるアミロイド画分[Matsubara E et al, Neurobiol Aging, 25: 833-841, 2004]を、陽性ハイブリドーマ細胞培養物の上清を用いた免疫沈降法で解析した(図1B)。抗Aβモノクローナル4G8を用いたイムノブロット分析により、ダイマー、それよりも少量のトリマー、さらには凝集したAβ分子種の特徴であるより高分子量スメアーが検出された。微量のSDS存在下で解離したAβモノマーも認められた。Native 1A9または2C3立体構造体(オリゴマー)の存在をさらに検証するために、本発明者らは、変異型PS1 cDNAをトランスフェクトしたヒト胎児腎臓(HEK)293細胞の馴化培地(CM)中での検出を目指した(Nakaya Y et al, J Biol Chem, 280: 19070-19077, 2005)。本発明者らはSECを用いてHEK293 CMを分画後、オリゴマー同定を試みた。以前に報告した通り(Matsubara E et al, Neurobiol Aging, 25: 833-841, 2004; Yamamoto N, et al: J Biol Chem, 282: 2646-2655, 2007)、この手法はオリゴマー(画分8~13)をモノマー(画分14~20)から効果的に分離する。モノクローナル1A9は、CM中に分泌されるSDS安定性Aβダイマーを画分8(>680 kDa)に、SDS安定性ダイマーおよびトリマーを画分13(17~44 kDa)に、さらにはごく微量のダイマーを画分16(図1C)中に免疫沈降させた。同様の結果が2C3での免疫沈降でも得られた(非提示データ)。これらのデータから、モノクローナル1A9または2C3が、Aβモノマーを認識することなく、Aβオリゴマーに対して真に特異的であることが明らかに示された。

[0133]
[実施例2]モノクローナル1A9および2C3の抗神経毒性活性
 モノクローナル1A9または2C3がAβ誘発性神経毒性を防御しうるか否かについて評価するために、NGFで分化させたPC12細胞(PC12N)を、モノクローナル抗体(mAb)の存在下または非存在下で、シードフリー25μMのAβ1-42(540,000×gによるThT陰性上清)とともに37℃で48時間インキュベートした。神経細胞の生存度はLIVE/DEADアッセイを用いて判定した(図2)。対照アッセイ(図2A)と比較して、Aβ1-42の存在下では有意な神経細胞死(50%)が観察された(図2Bおよび2G)。非特異的なIgG2b(図2Cおよび2G)は、Aβ1-42誘発性神経毒性を同一条件下で阻害することができなかった。市販のAβ特異的モノクローナル抗体4G8(IgG2bアイソタイプ、図2Dおよび2G)では毒性を増強する傾向がみられた。モノクローナル2C3(IgG2bアイソタイプ、図2Fおよび2G)は、Aβ1-42の神経毒性を濃度依存的にほぼ完全に中和したことから、de novo形成性の神経毒性2C3立体構造体はオリゴマー形態をとっていると考えられた。一方、1A9(IgG2bアイソタイプ、図2Eおよび2G)の抗神経毒性活性は2C3と非特異的IgG2bとの中間であり、このことは1A9立体構造体が2C3オリゴマーとは構造的に異なる立体構造を有することを示唆する。

[0134]
[実施例3]
 神経毒性Aβ1-42オリゴマーの正確なサイズおよび形態の同定は現在、最重要課題の一つで熾烈な競争下にある。本発明者らは可溶性神経毒性Aβ1-42分子種を限外濾過および分子篩(UC/MS)によって単離し以下の5つの画分に分割することができた(図3):画分1、<3 kDaの濾液(レーン1);画分2、3~10 kDaの濾液(レーン2);画分3、10~30 kDaの濾液(レーン3);画分4、30~100 kDaの濾液(レーン4);画分5、>100 kDaの保持液(レーン5)。モノクローナル4G8を用いたイムノブロット分析(図3A)により、画分1(レーン1)にはAβが存在せず、画分2(レーン2)にはAβモノマーが、(レーン3)にはAβモノマーに加えて少量のダイマーが、画分4(レーン4)にはモノマーからペンタマーまでのAβが、画分5(レーン5)にはモノマーからペンタマーまでに加えて45~160 kDaのバンドが認められた。これらのデータは、2%SDSが高分子量(HMW)Aβオリゴマーをモノマーおよび低分子量(LMW)オリゴマーへと脱重合させることを示している。毒性Aβ1-42のサイズ分布を検証するために、本発明者らはPC12Nとともに37℃で48時間コインキュベートした各画分の生物活性を調べた。図3Bおよび3Cに示されているように、画分1は非毒性であること、画分2の毒性もごくわずかであり、Aβモノマーおよびダイマーが有毒である可能性は低いことが示された。画分3~5は有意な毒性を示し[One-way ANOVA解析、p<0.0001]、神経毒性オリゴマーのサイズが理論上トリマー以上に相当することを示唆している。オリゴマー特異的A11抗体を用いたドットブロット解析でも、神経毒性を有する上記3画分(3~5)にA11陽性所見を認め、神経毒性体は確かにオリゴマーであるとの傍証が得られた(図3D)。2C3オリゴマーは画分4および5で観察され(図3D)、2C3が実際に神経毒性Aβオリゴマー(>30 kDa)と反応することが確認された。さらに2C3オリゴマーの大半は毒性の最も高い画分5に認められ(>100 kDa)、分子量が100 kDaを上回る2C3オリゴマーが強力な神経毒性を呈すると考えられた(図3D)。一方、1A9オリゴマーは毒性の最も高い画分5にわずかに分布するもののきわめて少量で、1A9による神経毒性中和活性が不十分であった結果(図2Eおよび2G)によく符合している。これに対して、抗神経毒性活性のないモノクローナル4G8は全ての画分に分布するAβ種を検出し(図3D)、同じサイズでもオリゴマーが非毒性重合体として存在している可能性が考えられた。

[0135]
 毒性-構造関連についてさらに検証するために、各画分を原子間力顕微鏡検査(AFM)に供した。神経毒性を呈する3画分でのみ、その分画サイズに対応した球形粒子形態が明らかとなった。図3Eには毒性のない画分2(Fr.2)、毒性を呈す画分3(Fr.3)および4(Fr.4)、最強毒性を呈す画分5(Fr.5)の原子間力顕微鏡像を示す。毒性画分での無数の粒状重合分子形成が明らかで、特に画分5は大小様々な粒状分子に加え、数珠状分子や輪状形態分子が混在した不均一な毒性分子から構成されることが明らかとなった。

[0136]
[実施例4]1A9または2C3のAβアミロイド線維形成抑制活性
 本発明者らは次に、1A9または2C3がAβアミロイド線維形成抑制活性をもつか否かの検討を行った。Aβ1-42アミロイド線維形成(0、10、25、50μM)を、ThT蛍光により37℃で72時間の長さにわたってアッセイした。本発明者らが施行した条件下では、シードフリーAβ1-42(540,000×g超遠心後のThT陰性上清画分)は、重合核依存的な機序により、アミロイド線維へと重合した(図4A)。1A9または2C3のAβアミロイド線維形成抑制活性を評価するために、本発明者らは、抗体の存在下または非存在下で、25μMのシードフリーAβ1-42を37℃で48時間インキュベートした。図4Bに示したように、ThT蛍光強度変化は2C3の濃度依存的であったが、モノクローナル1A9、4G8または非特異的IgG2bの存在下では変化を認めなかった。一方、2時間のインキュベートでのAβの重合では、2C3と同様に1A9においてもほぼ完全な線維形成抑制活性がみられた(図4C)。Aβアミロイド線維形成抑制活性はAβに対して2C3のモル比が低くてもみられ、2C3がAβ1-42アミロイド線維形成早期にde novo形成される重合核またはシード機能阻害効果を有していると推測された。同様の結果は形態的にも観察された。図4E(Aβ42単独)および図4F(Aβ42+2C3、25:3)に示した如く、Aβアミロイド線維形成がモノクローナル2C3の存在下では部分的に阻害され、1A9(図4G)存在下では阻害効果がわずかにしか認められなかったことが、電子顕微鏡検査(EM)によって実証された。一方、被験抗体はいずれも、24時間インキュベートであらかじめ形成されたAβ1-42アミロイド線維に対しては、その溶解効果や脱重合効果は観察されなかった(図4D)。

[0137]
[実施例5]1A9または2C3が標的とする毒性関連オリゴマー
 Aβ1-42オリゴマー化とアミロイド線維形成との間の構造的および動態学的な関係を解明するために、重合体形成のタイムコースをA11、1A9、2C3または4G8を用いたドットブロット解析にて行った。図5Aに示したように、A11抗体反応性オリゴマーの大半は重合のラグタイム期(0~8時間)に構築され、ThT-蛍光値は相対的に弱い。次の線維伸長期(8~24時間)には、A11免疫反応性オリゴマーのレベルはプラトーに達し、その後は72時間(プラトー期)もの間にわたって一定に保たれた(ピーク値の20%前後)。抗オリゴマーA11抗体は、アミロイド線維を認識せず、Aβオリゴマー形成を特異的に観察しうることが示されているため[Kayed R, et al, Science 300, 486-489, 2003]、本発明者らの結果は、Aβオリゴマー形成がアミロイド線維形成に先行し、しかもアミロイド線維形成経路に直接移行しないオリゴマー重合状態が存在することを示唆している。2C3オリゴマーとA11オリゴマーの動態は類似していたが、1A9オリゴマーの動態は異なるものであった。1A9オリゴマーは4時間後にはじめて検出され、その後経時的に2倍ほどの1A9免疫反応性上昇を認めた。これはとりもなおさず1A9オリゴマーが遅延型形成をとることを示唆する。これに対して、2C3オリゴマーはラグタイム期(O~8時間)に一過性の出現をみた後、8~72時間の間はオリゴマー重合状態としてごく微量(5%未満)存在していることが明らかとなった。これら本発明者らのデータは、A11、1A9および2C3オリゴマーが構造的および免疫学的に互いに異なる立体構造または安定性を有し、2C3オリゴマーは1A9オリゴマーに比し、比較的不安定である可能性が示唆された。

[0138]
 De novoの毒性重合状態について調べるために、シードフリーAβ1-42(0時間)と2時間、4時間および24時間プレインキュベートしたAβ1-42(図5B)を、PC12Nに37℃で48時間曝露させてその神経毒性活性を検証した。図5Bに示したように、4G8を用いたイムノブロット解析により、モノマーからトリマーまでは0時間の時点で既に存在することが明らかになった。2時間及び4時間のプレインキュベーションでは、モノマーからペンタマーに加え、分子量が45~160 kDaの高分子量(HMW)スメアパターンが得られた。HMWスメアの量は24時間時点では劇的に減少しており、ウェル内に残存しゲル内に進入できない高分子群とダイマーと少量のモノマーという2群が主な構成成分となっていた。37℃での48時間インキュベートするとHMWスメアは消失した。図3A, 5Cに示した如く、シードフリーAβ1-42は分子篩い実験から>100 kDa以上の分子量となり最大毒性を発揮することが明らかとなった。この毒性分子はSDS-PAGE上、モノマーからペンタマーに加え、分子量が45~160 kDaの高分子量(HMW)スメアパターンを呈す分子から構成されることが明らかとなり、SDS存在下で毒性重合体は容易に低分子に脱重合を受けることが判明した。ところが2時間、4時間および24時間とシードフリーAβ1-42にプレインキュベーション処置を行うと、de novoで形成されるAβオリゴマーの神経毒性活性が約12.5%、約26%低下した(図5C)。この結果はAβ重合早期にde novoで形成される Aβオリゴマー量の多寡が神経毒性活性の規定因子となること、0-2時間の間にその形成ピークがあり、時間経過とともにその形成量は減少すると考えられた。一方で、Aβアミロイド線維de novo重合核やアミロイド線維自体が神経毒性中和効果をもつ可能性も考えられる。本発明者らは2時間インキュベートしたAβ1-42から、540,000×gで3時間の超遠心分離処理によって不溶化したAβ重合核またはアミロイド線維を除去した。超遠心処理の結果得られた540,000×g上清およびペレットは同程度のチオフラビン-Tシグナルを呈したことから、ThT陽性可溶性Aβ重合体が540,000×g上清(ThT結合は線維形成でなくβシート構造に富む構造変化をきたしていることを示唆)中も存在することがわかる。この可溶性の重合体のみをPC12Nに対して曝露させると神経毒性が回復増強したことより(図5D)、不溶化Aβ1-42自体が抗毒性活性を発揮していると考えられた。これらの条件下で、モノクローナル1A9はβシート構造に富む可溶性Aβオリゴマーが誘発する神経毒性を完全中和し、2C3の中和活性を上回るものであった。一方、非特異的IgG2bはそれ自体では培養下にあるPC12Nの生存に影響を及ぼさない。したがって、神経毒性1A9重合体は本質的にはより構造変化をきたし若干安定化した可溶性毒性オリゴマーであり、神経毒性2C3重合体は本質的には、重合プロセスの初期段階におけるまさに構造変化をきたしている不安定さに富む短寿命のオリゴマー性中間体と考えられる。

[0139]
[実施例6]モノクローナル1A9または2C3は脳実質中のAβオリゴマーを認識する
 1A9または2C3の特異性および生物活性が実証されたことから、本発明者らは引き続いて、脳内の1A9または2C3重合体を免疫組織化学法によって検出することを目指した。本発明者らはまず慣例的な免疫組織化学法:すなわち、脳切片のホルムアルデヒド固定およびギ酸、SDSまたはマイクロ波処理による免疫反応性の増強法等を実施した。いずれの増強法を用いても、両抗体によるAD脳での免疫反応性は観察されなかった。本発明者らは免疫染色を改善することが知られているプロテアーゼ-Kで切片を前処理したところ[Wrzolek MA, et al: Am J Pathol, 141: 343-355, 1992]、多数の老人斑が1A9(図6A)、2C3(図6B)及びA11(図6C)によって免疫染色された。Aβアミロイド線維がAβオリゴマー誘発性神経毒性を中和するという本発明者らのインビトロ実験での知見と総合すると、老人斑はAβオリゴマーを隔離収納するための一種の防御的リザーバーであり、その内部には抗体は容易に到達できないものと考えられた。実際に、1A9または2C3を用いた免疫沈降では両抗体が認識するAβオリゴマーの存在が老人斑から構成されるアミロイド画分で確認されており、本発明者らの仮説はインビボでの整合性が証明された(図1B参照)。

[0140]
 脳内での「可溶性」1A9または2C3重合体の存在についてさらに検証するために、本発明者らは両抗体を用いて免疫沈降試験を行った。可溶性オリゴマーの抽出時における化学的修飾を避けるため、トリス緩衝食塩水(TBS)を用いて脳ホモジネートを調製した。TBS試料において、AD脳の大脳皮質からは、4-mer、5-mer、8-merおよび12-merに対応する分子量を有すオリゴマーが1A9によって免疫沈降されたが(図6D、レーン2)、健常対照脳では検出感度以下であった(レーン3)。1A9(レーン2)は、1A9と4G8/6E10との間で4-mer、5-merおよび8-merの強度が同程度であることにも関わらず、モノクローナル4G8/6E10の混合物(レーン1)よりも12-merを強く回収するように思われた。2C3免疫沈降によってもほぼ同一の結果が得られた(図6、レーン4~6)。このため、本発明者らは次に、ヒト内嗅領皮質において認められるインビボ神経毒性の責任分子の同定を試みた。一般的な高齢集団ではこの病変において神経原線維変化(NFT)および神経細胞喪失が老人斑形成に先行することがよく知られている。本発明者らは、1A9または2C3重合体に対する老人斑などの機能的リザーバーの欠乏が内嗅領皮質のニューロンにとって有害であり、おそらく記憶障害の原因であろうと仮定した。以前に報告した50例の剖検症例(Katsuno et al:Neurology, 64: 687-692, 2005):AD 2例、Braak NFTステージI~IIの個体35例およびNFTステージIII~IVの13例において、モノクローナル1A9または2C3を用いるイムノブロット法によって緩衝液可溶性画分における12-merのレベルを評価した。図6E(1A9)および6F(2C3)に示されているように、1A9-または2C3-免疫反応性12-merのアクチンに対する相対的免疫活性強度は、健常対照群(Braak NFTステージI~II)および軽度認知機能障害群(BraakステージIII~IV)に比してAD患者の方が有意に高かった。興味深いことに、健常対照(Braak NFTステージI~II)および軽度認知機能障害(BraakステージIII~IV)の内嗅領皮質では、12-merがそれぞれ約45%および60%のレベル(AD症例を100%として)で蓄積していた(図6EおよびF)。この結果は12-merの蓄積が認知機能障害の出現に先行し、Braak NFTステージが進行するほど増加することを示唆し、これは1A9または2C3免疫反応性12-merがインビボ神経毒性の原因となる重合体であることを示唆する。

[0141]
[実施例7]モノクローナル1A9または2C3は脳脊髄液中のAβオリゴマーを認識する
 インビボ神経毒性の原因となるAβ重合体(可溶性1A9-または2C3-免疫反応性12-mer)が脳実質中に存在することから、本発明者らは同重合体がCSF中にも存在するであろうと推測した。この予測を検証するために、本発明者らはAD患者およびage-matched健常対照者各10例をプールしたCSFをSECによって分画し、それぞれの画分を、捕捉および検出系に同一のモノクローナルBCO5またはBA27を使用したAβオリゴマーに対して特異的なサンドイッチELISAに供した。BC05-BC05オリゴマーELISAでは画分13に可溶性Aβ1-42の存在が同定され、一方、BA27-BA27 ELISAでは画分7~14に可溶性Aβ1-40の存在が検出された(非提示データ)。しかし、いずれのELISAで得られた吸光度値(O.D.450 nm)も低値に止まり、CSF中に存在する微量のAβオリゴマーを検出するには感度不足が否めなかった。また、同一画分のBNT77-ELISAによるAβモノマーの検討から、リポタンパク結合性Aβモノマー(画分7~14)およびリポタンパク非結合性Aβモノマー(画分15~17)は同じ画分中でAβオリゴマーと共存していることが確認された(図7-1Aおよび7-1B)[Matsubara E, et al; Neurobiol Aging, 25: 833-841, 2004]。ADにおけるリポタンパク結合性Aβモノマーの値は健常対照値と同程度であり、一方、リポタンパク非結合型Aβ40モノマー(図7-1A)およびAβ42モノマー(図7-1B)は、age-matched正常対照と比較してADの方が低値であった。これらのアッセイにおいて、本発明者らはまた、BCO5抗体またはBA27抗体を捕捉抗体として使用し、HRPで標識した同一抗体を捕捉抗体として構築したELISAでは、オリゴマーに加え、リポタンパク質上に別々に存在するAβモノマーを検出しうることを発見した。本明細書に記載された同様のアッセイ(例えば、6E10/6E10 ELISA)を使用した先行する報告では[Lee EB, et al, J Biol Chem, 281: 4292-4299, 2006]、この問題は見落とされていた。このようなリポタンパク結合性AβモノマーとオリゴマーはSECでは同程度の保持時間で溶出されるため、同一抗体を捕捉・検出に使用するオリゴマーELISAでは互いを識別することが不可能であり、Aβオリゴマー非選択的な抗体でAβオリゴマーを分析するには、リポタンパクを含有したCSFそれ自体は、検体として不適切であることが判明した。

[0142]
 本発明者らはこうした先行法の弱点を克服するため、使用サンプルとELISA検出抗体を工夫した。測定サンプルはあらかじめリポタンパク質を除去したCSF(LPD-CSF)を使用し、ELISA検出抗体にはAβオリゴマー特異的な1A9と2C3を用いた。さらに、感度向上を図るため、化学発光ELISAを開発した。プールしたLPD-CSF(図7-1C~D)をSECにて分画し、各画分を1A9・2C3を検出抗体とした発光系ELISAでAβオリゴマー分布を解析した。図7-1C~Dに示した如く、SEC画分12~15(分子量18~108 kDaの範囲にある比較的大きなAβで4-mer~24-merに対応)にAβオリゴマーの存在が同定された。同定された全ての画分において1A9・2C3オリゴマーのレベルは、AD患者で上昇していた。この診断マーカーとしての有用性を確認するため、少数例には止まったがAD患者と年齢を一致させた健常対照との間でLPD-CSF Aβオリゴマー量を比較検討した。図7-2Gに示した如く、Aβx-42からなる2C3オリゴマーは正常対照群と比較してAD患者で有意に増加していた(ノンパラメトリック分析: p=0.0103)。これに対してAβx-40からなる2C3オリゴマーでは両群間に有意差を認めなかった。一方、Aβx-42からなる1A9オリゴマーは統計上の有意差は認めなかったが、AD患者で増加している傾向にあった。Aβx-40からなる1A9オリゴマー両群間に有意差は認めなかった(図7-2E)。Aβモノマーからオリゴマーへの構造変化はAβ重合過程における最初期の事象であり、AβオリゴマーとAβモノマーとの比[O/M指数]は、ADの病的状態を反映した臨床的指標に相当する。図7-2Fおよび7-2Hに示した如く、Aβ42またはAβ40におけるO/M指数はいずれも健常対照群に比し、AD患者群で有意な上昇を認めた (1A9: Aβ42, P=0.0137; Aβ40, p=0.0429 vs 2C3: Aβ42, P=0.0012; Aβ40, p=0.0051) 。以上の結果から、1A9または2C3陽性立体構造体はLPD-CSF中にAβオリゴマーとして存在するだけでなく、AD患者で増加していた。さらに本発明者らの結果は、リポタンパク非結合性可溶性Aβのオリゴマー性中間体への構造変換がADのCSFで起こっていること、およびその検出が孤発性ADの診断に有用な生物学的マーカーとなりうることを明らかとした。

[0143]
[実施例8]モノクローナル1A9または2C3の受動免疫療法はTg2576における記憶障害の発症を予防する
 1A9(n=13)と2C3(n=11)投与による受動免疫療法のインビボ予防治療効果を検証するために、本発明者らはTg2576マウスの4カ月齢から13カ月齢まで1A9、2C3(0.4 mg/kg/week)またはPBSを尾静脈投与した。13カ月齢での記憶機能を4種の学習・行動パラダイムについて判定した:(1)Y迷路試験における短期記憶(図8A);(2)新規物体認識試験における物体認識記憶(図8B);(3)水迷路試験における空間記憶(図8C);(4)文脈的恐怖学習試験における連合情緒記憶(図8D)。PBSを投与したTg2576マウスは、1A9または2C3を投与したTg2576マウスと比較して有意な学習・行動障害を発症していた(図8A~D)。PBSを投与したTg2576マウス(n=10)とは異なり、1A9または2C3を投与したTg2576マウスの記憶機能は、以前同月齢の非投与野生型マウスのコホートから得られた結果と識別不能であることから、1A9または2C3を投与したTg2576マウスではPBSを投与群で認められた本来低下すべき短期記憶および長期記憶の両方が保たれていると確認された。即ち、記憶障害発症以前からAβオリゴマーを標的とした受動免疫療法を施行すれば、記憶障害発症予防、すなわちAD発症予防が可能である傍証を得ることができた。また、本結果はAβオリゴマーが記憶障害発症分子であることを直接示す初めてのin vivoエビデンスの提示である。

[0144]
[実施例9]モノクローナル1A9はTg2576脳におけるAβの蓄積を予防する
 4カ月齢から13カ月齢まで受動免疫治療を受けたTg2576マウス(1A9投与群n=13, 2C3投与群n=11)とPBS投与をうけたTg2576マウス(n=10)を、学習・行動実験の終了後解剖し、脳内(大脳皮質vs海馬)Aβ蓄積量をプロテアーゼインヒビター含有トリス緩衝液、可溶性(2% SDS)と不溶性アミロイド(2% SDS不溶70% 蟻酸可溶)の3画分(150 mg/各抽出液)に連続抽出して検証した。トリス緩衝液中には非蓄積性の生理的Aβ分子が、2% SDSで可溶化されるAβには、アミロイド線維形成前の瀰漫性老人斑や免疫細胞化学的に検出不能なAβや立体構造変化をきたした蓄積性の可溶性オリゴマーAβが含有されていると考えられている。Aβは、Aβ40断端, Aβ42断端それぞれに特異的なELISA(BNT77/BA27 specific for Aβ40, BNT77/BC05 specific for Aβ42, WAKOキット)で分別定量した。非蓄積性生理的Aβ分子が主体のトリス緩衝液中Aβ濃度は3群間で著変を認めなかった(図9A,C, Aβx-40; 図9B,D, Aβx-42)。可溶性脳内Aβ蓄積量(SDS画分)においては、1A9投与群においてのみ大脳皮質Aβx-40とAβx-42の有意な蓄積抑制効果が確認された(図9E, Aβx-40; 図9F, Aβx-42)。海馬では蓄積抑制効果を認めなかった(図9G, Aβx-40; 図9H, Aβx-42)。一方、不溶性脳内Aβ蓄積量(FA画分)では、1A9投与群においてのみ大脳皮質Aβx-40の有意な蓄積抑制効果が確認された(図9I, Aβx-40; 図9J, Aβx-42)。海馬では蓄積抑制効果を認めなかった(図9K, Aβx-40; 図9L, Aβx-42)。可溶性SDS画分のA11イムノブロット解析では、大脳皮質においてA11陽性オリゴマー(4-mer)の蓄積抑制効果が両抗体治療群で確認された(図9M)。

[0145]
[実施例10]1A9と2C3受動免疫療法では血漿中Aβオリゴマーが増加する
 4カ月齢から13カ月齢まで受動免疫治療を受けたTg2576マウス(1A9投与群n=13, 2C3投与群n=11)とPBS投与をうけたTg2576マウス(n=10)の3群間で血漿中Aβ濃度に有意差を認めなかった(図10A, Aβx-40; 図10B, Aβx-42)。Aβ40/42 ratioにも有意差は認めなかった(図10C)。

[0146]
 次いで、Tg2576マウスにおけるAD様表現型に対する1A9または2C3受動免疫処置(IVIg)の予防効果発現機序解明のため、本発明者らはプールした脳ホモジェネートを用いた生理食塩水可溶性および不溶性Aβオリゴマーの存在ならびに、Aβオリゴマーの末梢、血漿中における存在を検証した。各治療群内でプールした脳ホモジェネートの生理食塩水可溶性Aβオリゴマーの量に変化は見られなかった(図10D)。一方、不溶性Aβオリゴマーの量は、1A9または2C3治療群での減少が確認された(図10E)。また、各治療群内でプールした血漿(アルブミン除去血漿、パネルF上段;アルブミン・リポ蛋白除去血漿、パネルF下段)中AβオリゴマーをA11ドットブロットにて検証したところ、PBS投与Tg2576マウス血漿中にオリゴマーの存在を確認した(図10F)。受動免疫療法群ではPBS投与群に比し、A11陽性オリゴマーの血漿中増加が明らかであった(図10F)。また、2C3オリゴマーはリポ蛋白結合型として存在する比率が1A9オリゴマーより多かった(パネルF下段)。さらに、A11免疫沈降法にて血漿中Aβオリゴマーを検討した結果、PBS投与群に比較して、受動免疫療法を受けたTg2576マウスにて約200kDaのオリゴマーが増加していた(図10G)。この受動免疫療法群における血漿中Aβオリゴマーの増加は脳からのクリアランス増加を直接反映した結果と捉えることができる。静脈内受動免疫処置の直接の標的分子が脳以外に血液中にも存在し、末梢を作用点として脳からオリゴマー選択的クリアランス増加が図れるとの傍証が得られ、改めて静脈内受動免疫処置の臨床的整合性が確認できた。

[0147]
[実施例11]1A9と2C3受動免疫療法で老人斑アミロイドと腫大変性神経突起形成が抑制される
 受動免疫治療群では免疫組織化学的なAβ沈着が抑制された図11A)。チオフラビン-S染色陽性老人斑アミロイド数も大脳皮質・海馬の両者で優位にその形成が抑制され(図11B、上段)、その減少は組織学的にも明らかであった(図11B,下段)。シナプトフィジン陽性腫大変性神経突起形成も受動免疫療法群で優位に抑制された(図11C)。

[0148]
[実施例12]抗シナプトフィジン抗体またはドレブリン抗体による免疫染色分析
 1A9および2C3は、大脳新皮質における前および後シナプス変性を抑制した(図12)。

[0149]
[実施例13]抗体は脳内移行する
 共焦点レーザー顕微鏡でAβ沈着と脳内マウスIgGの存在と局在を検討した結果、瀰漫性老人斑存在部位に、Aβ沈着とはほぼ独立した形でマウスIgGの存在を確認した。このマウスIgGは受動免疫治療群[1A9(図13A)および2C3(図13B)]のみで観察され、PBS投与群(図13C)では認められなかったことから、血液中に投与した抗体の一部が脳内移行したと考えられた。この結果は、脳内移行した抗体が直接的に可溶性Aβ重合体の毒性を中和すること、さらに抗体と可溶性Aβ重合体の複合体の形で血液中にクリアランスされることで記憶障害予防効果が発揮されており、治療効果は複合的作用機序に基づいていると考えられた。

[0150]
[実施例14]他のAβモノマーを認識せず、オリゴマー特異的な抗体(E12、1C10および4D3)
 1C10および4D3は、再度マウスへ免疫して得られたハイブリドーマ386well中の陽性細胞24wellのうちの強陽性であった2つである。容易にランダムコイル構造からベータシート構造をとる合成Aβ1-40(HCl form)から50μMのシードフリーAβ1-40(モノマー)を調整し、37℃で0-96時間インキュベートにてオリゴマーを作製し、ドットブロットにて抗体のオリゴマー特異性を検証した。E12、1C10および4D3(すべてIgMアイソタイプ)は、2C3同様にモノマーに反応せず、オリゴマー特異的であることを確認した(図14)。

[0151]
[実施例15]IgG2bにクラス変更したE12抗体のイムノドットブロット解析
 既存の方法にてIgG2bアイソタイプへ変更したE12抗体に対してイムノドットブロット解析を行った結果、E12抗体(IgG2bアイソタイプ)はAβモノマー(0時間)を認識せずAβオリゴマー特異的に結合する抗体であった(図15)。また、アイソタイプの変更により抗体の特性に変化がないことが確認された。

[0152]
[実施例16]IgG2bにクラス変更したE12抗体のAβアミロイド線維形成抑制活性
 E12抗体(IgG2bアイソタイプ)がAβアミロイド線維形成の抑制活性を持つか否かを調べるため、Aβ誘発性神経毒性実験と同様の溶液組成中(培地中)のAβアミロイド線維形成を上述のThT蛍光強度測定法にて測定した。その結果、1.5μMのE12抗体存在下にAβアミロイド線維形成の抑制が観察された(図16)。

[0153]
[考察]
 本発明者らのデータは、モノクローナル1A9または2C3が、毒性活性または抗原線維形成活性の原因となる可溶性Aβ重合体の「神経毒性エピトープ」と「重合性エピトープ」を特異的に認識する抗体であることを報告するものである。モノクローナル1A9または2C3は生理的分子である可溶性Aβモノマーとは反応しないため、1A9や2C3に認識されるエピトープをもつ立体構造体は可溶性オリゴマー性重合体に特徴的であると断定できる。限外濾過および分子篩実験により、1A9または2C3免疫反応性オリゴマーのサイズは100 kDaを上回る(>20-mer)ことが明らかになった。AFMによる形態観察結果から、毒性重合体はheterogeneousな形態(粒状、数珠状、輪状)をとることも確認された。

[0154]
 このような毒性重合体が実際にインビボでシナプス毒性のある生物活性分子であることを実証するために、1A9または2C3毒性重合体を標的とした抗Aβオリゴマー受動免疫療法を記憶障害を発症前の若齢Tg2576マウスで開始した。本発明者らは、抗Aβオリゴマー特異抗体(1A9及び2C3)を用いた受動免疫処置が、Tg2576マウスで通常発症する加齢依存的な記憶力低下から防御する傍証を初めて提示した。本明細書でY-迷路試験によって評価した短期記憶の障害は、軽度認知機能障害(MCI)および早期ADにおいてAβ蓄積に伴ってみられるものと類似している。Y-迷路試験では、1A9および2C3を投与したTg2576マウスのそれぞれにおいて、はるかに良好な成績、およびほぼ正常な成績が観察された。新規物体認識タスク、Morris水迷路試験または条件付け恐怖タスクによって評価した長期記憶に関しては、どちらの抗Aβオリゴマー抗体も成績をほぼ正常なままに保たせた。

[0155]
 こうした両抗体の記憶障害発症予防効果(記憶維持効果)に一致して、抗体治療マウス群ではPBS治療群に比して血液中にA11陽性オリゴマーの選択的な増加を認めた。1A9抗体治療では、脳内Aβ蓄積抑制効果も認めた。2C3抗体治療では1A9抗体治療以上に血液中A11陽性オリゴマーの存在が証明されたが、脳内Aβ蓄積抑制効果は明らかでなかった。従って脳内Aβ蓄積への貢献度は1A9オリゴマーの方が2C3抗体より大きいと考えられた。神経毒性1A9重合体は若干立体構造的に安定化した可溶性毒性オリゴマーであり、神経毒性2C3重合体は重合プロセスの初期段階に出現するきわめて不安定で立体構造変化を来しやすい、短寿命のオリゴマー性中間体と考えると脳内Aβ蓄積への関与の説明が可能である。

[0156]
 いずれにしても、本明細書に提示した抗オリゴマー抗体によるアルツハイマー病のインビボ予防効果は、インビボで生成される毒性Aβオリゴマーが神経細胞機能を妨げてアルツハイマー病の症状を導きうるという証拠を初めて直接的に証明したものである。

[0157]
 本発明者らのデータはまた、ヒト脳におけるAβのインビボ神経毒性に対しても初めての傍証を提示するものである。ヒト内嗅領皮質はADで冒されやすい部位であることは有名であるが、同部位ではNFT形成および神経細胞喪失が老人斑形成に先行し、広く受け入れられているアミロイドカスケード仮説の当てはまらぬ例外部位であることが長らく無視放置されてきた。

[0158]
 本発明者らはこれまで同定不能であった非可視的なAβオリゴマーが内嗅領皮質の神経細胞に対して有害で、記憶障害を引き起こすとの仮説を立て検証した。この仮説を検証するために、本発明者らは、主としてBraak NFTステージI~IIIの高齢ヒトの内嗅領皮質において1A9または2C3免疫反応性12-merの半定量的解析を行った。1A9または2C3免疫反応性12-merはBraak NFTステージI~IIの健常個体の内嗅領皮質に既に存在し、Braak NFTステージが進行するに従って増加し、ADで有意な増加を認めた。従って、1A9または2C3免疫反応性12-merの出現は認知機能障害の発症に先行することがヒト脳で明らかとなった。一方、老人斑自体に1A9または2C3免疫反応性Aβオリゴマーが存在することが、生化学的・免疫組織化学的手法により確認されたこと、不溶化したアミロイド線維自体に神経毒性中和活性が存在することも確認されたことから、こうしたAβオリゴマーが存在するにも関わらず、老人斑が形成されない状況では、Aβオリゴマー自体がインビボ毒性を発揮し記憶障害発症の一因となると考えられた。

[0159]
 本発明者らのデータは、先にも述べたように、インビボでの内因性Aβオリゴマーを介したシナプス機能異常に起因した記憶障害を直接的に証明した初めての報告である。さらに、これまで能動免疫処置[Janus D, 2000, Nature;Morgan D, 2000, Nature]または受動免疫処置[Bard F, 2222、Nat med;DeMattos RB, PNAS, 2001]がなされてきたものの、学習障害および記憶障害がいかに阻止されるかの機序に関しては推測の域を出ていないのが現状であった。広く提唱されている1つの可能性は、抗体が血液脳関門を通って脳に到達し、インビボで記憶力低下の原因となる可溶性Aβオリゴマーを直接中和するというものである。第2の可能性は、抗体自体は末梢で作用し、血液中のAβ末梢プールを枯渇させ脳からのAβクリアランスを活性化させるとの"sink theory"である。DeMattosらは、末梢投与された抗Aβ抗体が血漿中に脳内Aβモノマーのみならず、Aβダイマーの急速な引き出しとCSF への脳内Aβの急速な引き出しを行うことを報告している[DeMattos RB et al, PNAS, 98; 8850-8855, 2001]。本発明者らも、ヒトCSF中にAβオリゴマーが存在し、AD患者で増加していることを明らかとし、AD診断マーカーとしての有用性を確認した。さらにTg2576マウス血漿中にAβオリゴマーが存在し、経静脈注射によるその特異的捕捉・中和による受動免疫治療においては、抗体を脳内にデリバリーする必要がなく、血液中という末梢の作用点で、脳から血液中へとAβオリゴマーのクリアランス促進が可能であるとの傍証も初めて提示した。さらに老人斑アミロイド形成自体、また老人斑アミロイドを介した間接的な神経細胞傷害(腫大変性神経突起形成)抑制も受動免疫療法で可能であることの傍証を初めて提示できた。これらの結果はAβオリゴマーがアルツハイマー病発症の分子基盤であり、その特異的抗体による選択的制御でアルツハイマー病自体の疾病制御が、治療より一歩進んだ予防的見地から可能であるが確認できたわけである。さらに脳内に投与抗体の一部が移行することが証明され、脳内で可溶性Aβオリゴマーを直接に中和する作用や、Aβオリゴマーと抗体が免疫複合体としてneonatal Fc-receptor[Deane R, 2005, J Neurosci]を介し血中へと輸送される作用、先のsink作用などが複合的に作用し、記憶障害抑制効果が発揮されていると考えられた。

[0160]
 さらにこうした予防治療構築に当たり不可欠な命題が、ADを発症するリスクが高い症例の確実な発症前診断の実現である。本明細書で報告したADにおけるCSF O/M比の有意な増大は、この目的達成のための有力候補であると考えた。

[0161]
 本発明によって提供される抗体は、例えばアルツハイマー病の経静脈的予防的受動免疫療法、バイオロジカルマーカー(発症前診断、病勢観察、薬効モニター・判定)などに用いることが可能である。

[0162]
 また本発明によって提供される抗体によって、アルツハイマー病の病態惹起性責任分子選択的な予防・治療法確立と早期診断マーカー確立への多大な貢献が期待される。脳内病態を標的とすべき抗体療法においても、その脳内移行を考慮することなく末梢静脈投与療法で十分であるとの傍証、さらには脳内移行を考慮することなく行える末梢静脈投与療法でも抗体の一部は脳内に移行しその直接効果による付加効果が得られるという証拠が得られた結果、アルツハイマー病の抗体医療が一気に加速すると考えられる。

[1]
 Aβオリゴマーに結合する抗体であって、Aβモノマーに結合しないことを特徴とする、抗体。

[2]
 配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するH鎖、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体が結合するAβオリゴマーと結合する抗体。

[3]
 配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するH鎖、および配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体が結合するAβオリゴマーと結合する抗体。

[4]
 配列番号:41に記載のアミノ酸配列を有するH鎖、および配列番号:43に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体が結合するAβオリゴマーと結合する抗体。

[5]
 以下の(1)~(20)のいずれかに記載の抗体。
(1)CDR1として配列番号:9に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:11に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:13に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(2)CDR1として配列番号:15に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:17に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(3)(1)に記載のH鎖、および(2)に記載のL鎖を含む抗体
(4)VHとして配列番号:5に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(5)VLとして配列番号:7に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(6)(4)に記載のH鎖、および(5)に記載のL鎖を含む抗体
(7)CDR1として配列番号:29に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:31に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:33に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(8)CDR1として配列番号:35に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:37に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:39に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(9)(7)に記載のH鎖、および(8)に記載のL鎖を含む抗体
(10)VHとして配列番号:25に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(11)VLとして配列番号:27に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(12)(10)に記載のH鎖、および(11)に記載のL鎖を含む抗体
(13)CDR1として配列番号:49に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:51に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:53に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(14)CDR1として配列番号:55に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号:57に記載のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号:59に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(15)(13)に記載のH鎖、および(14)に記載のL鎖を含む抗体
(16)VHとして配列番号:45に記載のアミノ酸配列を有するH鎖を含む抗体
(17)VLとして配列番号:47に記載のアミノ酸配列を有するL鎖を含む抗体
(18)(16)に記載のH鎖、および(17)に記載のL鎖を含む抗体
(19)(1)から(18)のいずれかに記載の抗体において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された抗体であって、(1)から(18)のいずれかに記載の抗体と同等の活性を有する抗体
(20)(1)から(18)のいずれかに記載の抗体が結合するエピトープに結合する抗体

[6]
 抗体がキメラ抗体またはヒト化抗体であることを特徴とする、請求項5に記載の抗体。

[7]
 請求項1~6のいずれかに記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物。

[8]
 請求項1~6のいずれかに記載の抗体、または請求項7に記載の組成物を有効成分として含有する、抗認知機能障害剤。

[9]
 請求項1~6のいずれかに記載の抗体、または請求項7に記載の組成物を有効成分として含有する、アルツハイマー病治療剤。

[10]
 請求項1~6のいずれかに記載の抗体、または請求項7に記載の組成物を有効成分として含有する、アルツハイマー病進行抑制剤。

[11]
 請求項1~6のいずれかに記載の抗体、または請求項7に記載の組成物を有効成分として含有する、老人斑形成抑制剤。

[12]
 請求項1~6のいずれかに記載の抗体、または請求項7に記載の組成物を有効成分として含有する、Aβ蓄積抑制剤。

[13]
 請求項1~6のいずれかに記載の抗体、または請求項7に記載の組成物を有効成分として含有する、抗神経毒性剤。

[14]
 請求項1~6のいずれかに記載の抗体、または請求項7に記載の組成物を有効成分として含有する、Aβアミロイド線維形成阻害剤。

[15]
 請求項1~6のいずれかに記載の抗体、または請求項7に記載の組成物を有効成分として含有する、抗シナプス毒性剤。

[16]
 被験者から採取された試料に含まれるAβオリゴマーを、請求項1~6のいずれかに記載の抗体を用いて検出する工程を含む、Aβオリゴマーを測定する方法。

[17]
 請求項1~6のいずれかに記載の抗体を用いて、被験者から採取された試料におけるAβオリゴマーを検出することを特徴とする、被験者がアルツハイマー病候補であるか否か診断する方法。

[18]
 以下の工程を含む、被験者がアルツハイマー病候補であるか否かを診断する方法であって、工程(b)に記載の量が健常者と比較して高い場合に、被験者がアルツハイマー病候補であると判定される方法。
(a)被験者から採取した試料、および請求項1~6のいずれかに記載の抗体とを接触させる工程
(b)前記試料中におけるAβオリゴマーの量を測定する工程

[19]
 以下の工程を含む、被験者がアルツハイマー病候補であるか否かを診断する方法であって、工程(b)に記載の比が健常者と比較して高い場合に、被験者がアルツハイマー病候補であると判定される方法。
(a)被験者から採取した試料、請求項1~6のいずれかに記載の抗体、およびAβモノマーに結合する抗体とを接触させる工程
(b)前記試料中におけるAβモノマーに対するAβオリゴマーの比を測定する工程

[20]
 試料が血液もしくは脳脊髄液である、請求項16~19のいずれかに記載の方法。

[21]
 請求項16~19のいずれかに記載の方法に用いるための薬剤。

[22]
 請求項16~19のいずれかに記載の方法に用いるためのキット。

Download Citation


Sign in to the Lens

Feedback