非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカー、非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別する方法およびそれらに用いるキット

[0001]
 本発明は、非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカー、非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別する方法およびそれらに用いるキットに関する発明である。詳細には、本発明は、従来、肝生検以外では診断が困難であった非アルコール性脂肪肝炎の検出並びに脂肪肝との鑑別診断に好適な非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカー、非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別する方法およびそれらに用いるキットに関する発明である。

[0002]
 近年食生活の変化にともないアルコールを飲まないのに肝臓病理組織学検査上、脂肪肝や、アルコール性肝炎に類似した脂肪肝に炎症を伴った所見を示す脂肪性肝炎に罹患する患者が急増している。このような新しいカテゴリーの疾患は併せて非アルコール性脂肪性肝疾患(Non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)と呼ばれている。非アルコール性脂肪性肝疾患は、非アルコール性脂肪肝(単純脂肪肝)と、肝線維化を伴い肝硬変、肝癌へと進行する非アルコール性脂肪肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis:以下NASHという場合もある)とからなる。NASHは、1980年代に入りLudwigらによって提唱された比較的新しい疾患概念である(非特許文献1)。
 従来、単純脂肪肝は予後が良好な疾患とされてきた。一方、351例のアルコール摂取歴の無い献体の死後解剖の解析においては6.3%の頻度で、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が存在することが報告されており、NAFLDのなかでNASHの存在が明らかになってきた(非特許文献2)。
 NASHは、米国においては最も一般的な慢性肝臓疾患である。日本でも1990年代に入って、肥満や糖尿病が増加し、飲酒歴や肝炎ウイルスが陰性であるにもかかわらず肝脂肪蓄積や肝障害が進むこの疾患が取り上げられるようになってきた。この疾患は、肥満者に多く、インスリン抵抗性との関連も強いが、近年、糖尿病などほかの生活習慣病とは明らかに独立して進行する肝臓病とされている。

[0003]
 NASHは、肝炎から肝硬変に至る進行性の疾患であり、可逆性に乏しい肝硬変に至るより以前の早期の段階での医療の介入が必要とされる。一方、NAFLDの多くを占める単純脂肪肝は可逆性に富み良性といってよい。NAFLDは従来の臨床検査、たとえば血中肝臓関連酵素の測定、腹部エコー、腹部CTといった検査の組み合わせで診断が概ね可能である。しかしNASHは、NAFLDと異なりそのような方法では検出の難しい疾患とされている。
 他の肝疾患、たとえばウイルス性肝炎の場合、患者検体中のウイルス抗原、抗ウイルス抗体有無で検出または鑑別でき、診断基準が確立されている。それに比べNASHの場合、現在では肝生検を基に評価される肝臓病理組織学検査だけが、NASHの確定診断に際しての唯一明確な検査で臨床上受容されている方法である。
 しかし、肝生検は肝臓そのものの一部を切除して検査を行うため、通常入院が必要であり患者にとって経済的な負担も出血などリスク負担も高くルーチンには実施しにくい。一方、NASHと鑑別診断が必要な単純脂肪肝は非常にありふれた疾患でしかも良性であり経過観察で済まされる事もしばしばである。にもかかわらず現在、日常的な臨床設定において医師にとってNAFLDと診断し、さらにNASHを疑った場合に肝生検をいつ実行すべきかについての確固たる提言は未だ展開されていないのが実情である。医学上の必要性と限界の故とはいえ、肝生検まで行って診断が単純脂肪肝であった場合、患者にとっての負担感は一層大きい場合があり医師にとってこのような現状は肝生検を行うに当たっての判断に苦しむ場合が多い。

[0004]
 一方、患者の負担を軽くするため、NASHの検出または鑑別法として肝生検以外の方法も種々、試みられている。
 それにもかかわらず、従来の血清アミノトランスフェラーゼ等の肝臓関連酵素の上昇を用いる診断法はNASHと単純脂肪肝等のNASH以外の肝疾患を区別するには不十分である。すなわち、NASHの指標であるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)などのアミノトランスフェラーゼの検査値は、ほとんど他の生活習慣病、肝臓病、血液疾患、悪性腫瘍といった多くの疾患の検査値異常と重なり、高感度でも特有のものではなく、また、これらの酵素が正常範囲の場合にもNASHがしばしば発見されるからである。

[0005]
 一方、従来の診断マーカー(血液診断マーカーALT、ASTの他、人種や糖尿病の有無など)を組み合わせてスコア化し、NASHを診断する方法も検討されている(非特許文献3)。しかし、この方法では、各種マーカーを組み合わせてスコア化しても、リスク(Risk)が「高い(High)」と判定されたグループでさえほぼ半分はNASHでは無かった。また、リスクが「中間(intermediate)」、「低い(low)」判定では非NASHの割合はより高い一方、逆にこれらの判定においても3割近くはNASH患者が含まれているなどの問題がありNASH診断の精度には問題がある。
 また、超音波診断によりNASHを鑑別する方法も検討されている(非特許文献4)。この場合、脂肪肝とされた34症例のうち9症例は従来の血液診断マーカー(ALT、ASTの他にγグルタミルトランスペプチダーゼ(γGTP)、アルカリフォスファターゼ(ALP)を含む)は正常範囲であったが、肝生検まで行うとその9症例のうち7症例はNASHを持っていた例が紹介されており、従来の診断マーカーによるNASH診断の難しさが示されている。
 このように、NASH患者を早期に発見し、治療を早期に行うことが必要にもかかわらず、その検出や鑑別には、患者に大きな負担を与える肝生検以外の確定診断法がないのが実情である。従って血液のような採取の容易な検体で、その疾患を検出または鑑別する方法が強く望まれている。

[0006]
Mayo Clin.Proc.,55:434-438,1980 Gastroenterology,121,710-723(2001) Hepatology,47,1916-1923(2008) World J.Gastroenterol.,15(15),1863-1868(2009)

[0007]
 本発明は、このような事情のもと、従来、肝生検以外では鑑別が困難であった非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカー、非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別する方法およびそれらに用いるキットを提供することである。

[0008]
 本発明者は、上記した課題を解決するために鋭意研究した結果、非アルコール性脂肪肝炎患者由来の血清中にはアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼ(Alanine-glyoxylate aminotransferase)(本明細書においてはAGXTと略すこともある)が健常人由来の血清に比べてそのレベルが有意に高く、従って、アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼが非アルコール性脂肪肝炎の検出および/または鑑別のマーカーと成り得ることを見出し、本発明を完成させた。
 すなわち、本発明は、
 [1].アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼからなる非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカー;
 [2].検体中のアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼを測定することにより、非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別する方法;
 [3].検体中のアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼのレベルと健常人由来検体中のアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼのレベルとを比較して、そのレベルが高い場合に非アルコール性脂肪肝炎と判定する、非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別する方法;
 [4].アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼに特異的に結合する抗体を用いた免疫測定法により、またはアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼの酵素活性の測定により、アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼを測定する、上記[2]または[3]に記載の方法;
 [5].検体が血液由来検体である、上記[2]から[4]のいずれかに記載の方法;
 [6].アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼに特異的に結合する抗体、またはアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼの酵素活性を測定するための試薬を含む、非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用キット;
 [7].アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼの非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカーとしての使用;
および
 [8].非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカーとして使用するためのアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼ
に関するものである。

[0009]
 本発明により、患者由来検体中のアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼを測定することにより、NASHと健常人および単純脂肪肝患者を鑑別し区別することができる。検体は、血清のように簡便に患者から採取できるものでよい。従前より、通常入院を伴う肝生検がNASHの確定診断に必須とされていたが、アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼ測定により簡便な血液検査による精度のよいNASH診断が可能になるので、診断薬を含む診断分野における用途に適用できる。良性の単純脂肪肝と異なり、NASHは肝炎から肝硬変と進行性の経過をたどり発癌との関係も指摘されているため、NASHの確定診断のニーズは高い。本発明の非アルコール性脂肪肝炎用検出および/または鑑別マーカーを用いることにより、非アルコール性脂肪肝炎を精度よく、検出および/または鑑別することができる。特に従来、肝生検以外では鑑別が困難であった非アルコール性脂肪肝炎と単純脂肪肝との判別、ひいては健常人と非アルコール性脂肪肝炎患者を判別することができる。

[0010]
実施例1で行った、男性における健常人(Control)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)患者、単純脂肪肝(FL)患者からの血清についてのウェスタンブロッティングとその定量化の結果を示す。 実施例1で行った、女性における健常人(Contorol)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)患者、単純脂肪肝(FL)患者からの血清についてのウェスタンブロッティングとその定量化の結果を示す。

[0011]
 本発明における非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカーは、アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼである。本発明において、非アルコール性脂肪肝炎の検出とは、非アルコール性脂肪肝炎それ自体の存否を調べ判定することを指し、非アルコール性脂肪肝炎の鑑別とは、非アルコール性脂肪肝炎とそれ以外の疾患、例えば単純脂肪肝などとを区別し判別することを指す。AGXTは、EC2.6.1.44で表される、アラニンとグリオキシル酸をピルビン酸とグリシンに変換するアミノ基転移酵素の一つである。AGXTは生体中で肝臓にきわめて限局した発現を示すことが知られている(Clin.Biochem.,Vol.18,October 1985,311-316)。
 本発明においては、例えば、NASHが疑われる患者から得た検体中の、上記NASH検出および/または鑑別用マーカータンパク質であるAGXTの存否を検出しあるいはその量を測定して、NASH発症を検出、あるいは、単純脂肪肝等のNASH以外の肝臓疾患とNASHとを鑑別することができる。
 本発明の非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別する方法では、検体中のAGXTのレベルと健常人由来検体中のAGXTのレベルとを比較して、そのレベルが高い場合に非アルコール性脂肪肝炎と判定することができる。より具体的には、本発明の方法は、例えば、(i)診断すべき個人由来の適当な試料中のAGXTのレベルを測定し、ついで(ii)測定値レベルと、明らかに健康な個人(正常個人)について対応するレベル(正常レベル、正常濃度範囲)とを比較する工程よりなることを特徴とする。AGXTの測定値レベルが正常レベルから逸脱して高い場合、NASHと疑われる。
 前述のように、本発明においては、アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼを非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカーとして使用することができる。

[0012]
 本発明で用いることができる検体としては、NASH疾患が疑われる患者から採取した血液由来検体、例えば血清、血漿、血液など、あるいは尿などが挙げられる。検体としては血液由来検体が好ましい。検体としては、特に、ウイルス性肝炎でないことが判明した患者の検体で一般的な単純脂肪肝患者かNASH患者か判明しない患者の検体が好ましい。

[0013]
 本発明において、AGXTの存否の検出あるいはその量の測定は、原則的に、満足すべき感度、精度、特異性ほかを供する現在既知のあらゆる方法を採用することができる。例えば、免疫測定法によるタンパク質としてのAGXTの測定、酵素法による酵素としてのAGXT活性の測定を例示することができる。測定感度の高さ、特異的な測定が可能であるなどの点から免疫測定法が好ましい。
 免疫測定法は、AGXTおよびAGXTに特異的に結合する抗体(抗AGXT抗体)よりなる免疫複合体を形成し得る条件下、AGXTを含む可能性のある検体を、抗AGXT抗体と接触させることを特徴とする。その後に、形成した複合体を公知の方法によって測定して、検体中のAGXTレベルの定量的または定性的測定値、換言すると、検体中のAGXTレベルの測定値を得ることができる。
 これらの形態のアッセイにおいては、免疫複合体をそのままで測定でき、あるいは、それを分析的に検出可能な物質(標識物)で標識することによって測定でき、標識物は当該免疫複合体に特異的に取り込まれるようにすることができる。

[0014]
 免疫測定法としては、本発明の非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカータンパク質であるAGXTに対するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体を用いた、従来知られているタンパク質を測定する方法を挙げることができる。そのような免疫測定法として、酵素免疫測定法(EIA法)、免疫比濁測定法(TIA法)、ラテックス免疫凝集法(LATEX法)、電気化学発光法、蛍光法、ウェスタンブロッティング法などを例示することができる。またイムノクロマト法、試験紙を利用した方法も有効である。これらの方法自体は、いずれも当業者に周知の方法でありこれら周知の方法をそのまま採用することができる。
 上記免疫測定法に使用できる抗体としては、市販の抗体(例えば、ABGENT社のウサギ抗ヒトAGXT抗体)を用いることができる。また、既に汎用されている方法により作製されるポリクローナル抗体やモノクローナル抗体が挙げられる。抗体を作成するためのAGXT抗原は、ヒト血液から精製して入手してもよいが、AGXTの公知のアミノ酸配列やそれをコードする遺伝子配列(Biochem.Biophys.Res.Commun.,176(3):1093-1099,July 1991;Genomics,10(1):34-42,July 1991)に基づいて遺伝子工学技術により合成してもよく、また公知のペプチド合成技術を用い、化学合成して入手してもよい。

[0015]
 以下に、酵素免疫測定法の例を挙げて説明する。初めにポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ナイロン、ポリメタクリレートなどのそれ自体公知である固相に直接または間接的に物理結合や化学結合、アフィニティーを利用してAGXTに対するモノクローナル抗体を結合させる。感作抗体量は通常1ng~100mg/mlの範囲である。物理結合や化学結合、アフィニティーなどによって固相に結合したモノクローナル抗体に検体を加えて反応させる。一定時間反応させた後、固相を洗浄し対応する二次標識抗体(例えば、抗AGXT2次標識抗体)を加えて更に2次反応させる。固相を再度洗浄し、DAB発色基質などを加え反応させる。標識物質にHRPを用いた場合、基質には既知のDAB、TMBなどを用いることができ、標識物質はこれに限定されるものではない。例えば酵素だけではなく金コロイド、ユーロピウムなどの標識金属やFITC、ローダミン、Texas Red、Alexa、GFPなどの化学的、生物的各種蛍光物質、32P、51Crなどの放射性物質など識別可能なあらゆる物質が挙げられる。

[0016]
 AGXTをウェスタンブロッティング法で測定するときには、ゲル電気泳動の優れた分離能と抗原抗体反応の高い特異性を組み合わせて、検体中の様々な物質からAGXTを分離し、検出またはその量を測定する。具体的には、まず、検体をSDS-PAGEや等電点電気泳動、二次元電気泳動に付し、次いで、ゲルからAGXTを電気的にメンブランに移動・固定化してブロット(メンブラン)を作製する。メンブランには、タンパク質が結合しやすい疎水性の高いニトロセルロースやさらに疎水性に優れたPVDF(Polyvinylidene Fluoride)を用いることが好ましい。次いで、ブロットを抗AGXT抗体と反応させて検出する。検出法には酵素を用いる系、蛍光を用いる系などがある。酵素を用いる系では、ALPやHRPなどで標識した二次抗体を一次抗体に反応させて、酵素活性による発色や化学発光により検出する。また、化学発光による検出には、X線フィルムへの露光検出、あるいは化学発光を、スキャナーによりAGXTを検出またはそのレベルを測定できる。蛍光法を用いる時には、Cy3やCy5で標識した二次抗体を用いて定量することも可能である。

[0017]
 酵素法による酵素としてのAGXT活性を測定する方法としては、例えば、AGXTをその基質と反応させ、生成する生成物を測定することによりAGXT活性を測定する方法が挙げられる。具体的には、基質としてアラニンとグリオキシル酸を必須成分として用い、場合によりピリドキサールリン酸の存在下で酵素反応させ、生成するピルビン酸を測定する方法が挙げられる。生成するピルビン酸を測定する方法としては、そのピルビン酸に、乳酸脱水素酵素とNADHを作用させ、NADHの減少量を測定してピルビン酸を測定する還元法、ピルビン酸にリン酸とピルビン酸オキシダーゼを作用させ、生成する過酸化水素を測定してピルビン酸を測定する酸化法などが挙げられる。

[0018]
 還元法の場合には、ピルビン酸に、乳酸脱水素酵素とNADHを作用させ、反応液にNADHが吸収する波長340nmの紫外線を照射して吸光度の減少割合に基づきNADHの減少量を測定してピルビン酸を測定することができる。

[0019]
 酸化法の場合、過酸化水素量の測定は、ペルオキシダーゼと酸化により発色する基質とを用い、生成する色素を測定することが好ましい。この場合、酸化により発色する基質としては、酸化により発色する単一化合物の基質、トリンダー試薬と4-アミノアンチピリン等とを組み合せた基質等が挙げられる。酸化により発色する単一化合物としては、N-カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)-ジフェニルアミンナトリウム塩(DA-64)、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-フェノチアジンナトリウム塩(DA-67)等のロイコ色素、N,N,N’N’,N”,N”-ヘキサ(3-スルホプロピル)-4,4’,4”,-トリアミノ-トリフェニルメタン6ナトリウム塩(TPM-PS)、またはオルトフェニレンジアミン(OPD)が例示できる。トリンダー試薬としては、例えば、フェノール誘導体、アニリン誘導体等が挙げられる。トリンダー試薬の具体例としては、2,4-ジクロロフェノール、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(DAOS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメチルアニリン(MAPS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジン(TOOS)、N-エチル-N-スルホプロピル-m-アニシジン(ADPS)、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン(ALPS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン(DAPS)、N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン(HDAPS)、N-エチル-N-スルホプロピル-m-トルイジン(TOPS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-アニシジン(ADOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン(ALOS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N-スルホプロピル-アニリン(HALPS)等が挙げられる。
 また、前記4-アミノアンチピリンに対応する化合物としては、アミノアンチピリン誘導体、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)等も使用できる。

[0020]
 本発明の非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別する方法は、例えば、試薬成分として少なくともAGXTに特異的に結合する抗体(抗AGXT抗体)、またはAGXTの酵素活性を測定するための試薬を含む非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別用キットにより実施することができる。
 抗AGXT抗体は、例えば、マイクロプレートなどの水不溶性担体に結合させた形態で、キットの試薬成分とすることができる。キットの他の試薬成分としては、例えば抗ヒトイムノグロブリン抗体などの二次抗体が挙げられ、この二次抗体は、採用する酵素免疫測定方法、放射免疫測定方法、蛍光免疫測定方法、化学発光免疫測定方法などの測定方法に応じて、酵素、放射性同位元素、蛍光物質、化学発光物質などの標識物で標識されたものが用いられる。その他の試薬成分として、界面活性剤、緩衝剤などを適宜、加えてもよい。

[0021]
 AGXTの酵素活性を測定するための試薬としては、例えばAGXTの基質、その基質との反応により生成する生成物を測定するための試薬などが挙げられる。そのような試薬としては、例えば、基質としてアラニンとグリオキシル酸、生成するピルビン酸を測定するための成分を必須成分として、場合によりピリドキサールリン酸を含む試薬を用いることができる。ピルビン酸を測定するための成分としては、還元法の場合、乳酸脱水素酵素とNADHを含み、酸化法の場合、リン酸、ピルビン酸オキシダーゼと、過酸化水素を測定するための成分を含むことができる。過酸化水素を測定するための成分としては、ペルオキシダーゼと酸化により発色する基質とを含むことができる。酸化により発色する基質は、前記に例示した酸化により発色する単一化合物の基質、トリンダー試薬と4-アミノアンチピリン等が例示できる。

[0022]
 以上に説明した方法により、NASHが疑われる患者から得た検体中のAGXTの存否を検出しあるいはその量を測定することにより、NASHの検出および/または鑑別をすることができる。
 本発明の方法は、健常者とNASH患者との鑑別ができるほか、従来、肝生検以外では困難であったFL患者とNASH患者との鑑別ができる。

[0023]
 以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1
NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)患者とFL(単純脂肪肝)患者、健常人血清中のAGXT(Alanine-glyoxylate aminotransferase,アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼ)値の測定
 健常人18名(男性10人と女性8人)、FL患者9名(男性4人と女性5人)、NASH患者17名(男性8人と女性9人)、の各血清について、以下に記載する方法によって血清中AGXT値を測定した。健常人、NASH患者、FL患者の比較に当たっては性別、年齢、BMI(Body Mass Index)に統計学的に大きな偏りの無い比較を行っている。
 健常人血清は、健康診断受診者のうち文書による同意を得られたボランティアより空腹時血清を採取したものである。NASH患者は全例が検査入院患者の肝生検による確定診断例であり、その際に同意と空腹時血清を得たものである。FL患者は肝生検または肝エコー検査にて肝臓に脂肪肝の所見が見られた患者であり、その際に同意と空腹時血清を得たものである。

[0024]
1.方法
 血清中AGXT測定のため、無処理の血清0.2μL相当に2×SDS-サンプルバッファー(0.125Mトリス-Cl、2.0%SDS(sodium dodecyl sulfate)、10% グリセロール、0.05%ブロモフェノールブルー、pH6.8)を50μLと純水を加え懸濁し、うち10μL相当を用いてSDS-PAGE(polyacrylamide gel electrophoresis)を行った。SDS-PAGEに使用したゲルは10~20%のアクリルアミド濃度勾配をつけた、縦8cm、横14cm、厚さ1mmのポリアクリルアミドゲル(DRC社)を用い行った。次いで、公知の方法に従いウェスタンブロッティングを行った。つまり、SDS-PAGEで分離したタンパク質をPVDF(Polyvinylidene fluoride)膜に転写した。転写後のPVDF膜を所定の大きさに切り、ポンソーS染色に供し転写ムラがないか確認した。次いで、PVDF膜を0.05%スキムミルク-PBS-T(Phosphate with Tween20)に4℃で一晩浸してブロッキンクし、続いてPBS-Tに室温で10分間浸し洗浄する操作を3回繰り返した。洗浄後のPVDF膜を、ウサギ抗ヒトAGXT抗体(ABGENT社)を溶解させたPBS中、室温で1時間インキュベートし、続いてPBS-Tに室温で5分間浸し洗浄する操作を3回繰り返した。洗浄後のPVDF膜を、HRP標識抗ウサギIgG抗体(ダコ社)を含有するPBS中、室温で1時間インキュベートし、続いてPBS Tween20(0.1%)に室温で5分間浸し洗浄する操作を3回繰り返した。洗浄後のPVDF膜より、FEMTOGLOWウェスタンブロッティング発光試薬(Michigan Diagnostics社)を用いて添付のプロトコルに従い発光シグナルを検出した。シグナル検出及び画像解析機器はLumiVision PRO 400EX(アイシン精機)を使用し、発光シグナルの撮影及び数値化を行った。

[0025]
2.結果
 ウェスタンブロッティングによって得られたシグナルの画像解析の結果について男性の場合を図1、女性の場合を図2に示した。また、男女合わせて、画像解析結果における各バンドのシグナル強度を数値化しAGXT値を求めたところ表1の結果となった。

[0026]

[0027]
 以上の結果より、AGXT測定により健常者やFL患者と、NASH患者を高精度に鑑別できることが判明した。

[0028]
 GOT(AST)、GPT(ALT)といった既存の肝機能マーカーでは、単純脂肪肝、NASH以外の肝臓疾患や肝臓疾患以外の他の疾患によってその値が容易に上昇してしまうが、これらに比しAGXTでは、NASHについて特異的であり、誤診のリスクがはるかに少なく、診断分野に寄与すること大である。従って、AGXTを非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカーとして、AGXT測定により健常者や単純脂肪肝患者と、NASH患者を高精度に検出または鑑別できる。

[1]
 アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼからなる非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカー。

[2]
 検体中のアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼを測定することにより、非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別する方法。

[3]
 検体中のアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼのレベルと健常人由来検体中のアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼのレベルとを比較して、そのレベルが高い場合に非アルコール性脂肪肝炎と判定する、非アルコール性脂肪肝炎を検出および/または鑑別する方法。

[4]
 アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼに特異的に結合する抗体を用いた免疫測定法により、またはアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼの酵素活性の測定により、アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼを測定する、請求項2または3に記載の方法。

[5]
 検体が血液由来検体である、請求項2から4のいずれか1項に記載の方法。

[6]
 アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼに特異的に結合する抗体、またはアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼの酵素活性を測定するための試薬を含む、非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用キット。

[7]
 アラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼの非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカーとしての使用。

[8]
 非アルコール性脂肪肝炎検出および/または鑑別用マーカーとして使用するためのアラニン-グリオキシレートアミノトランスフェラーゼ。

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